ゴーン・ショック!~カリスマ経営者の落日
日産自動車を再生したカリスマ経営者カルロス・ゴーン氏逮捕のニュースが世界を驚かせた。連日の報道で氏の背任行為や事件の背景などについて、ジャーナリストや識者からいろいろと解説がなされている。真相はまだまだ見えてこないが、これは単に権力者個人の私腹肥やしの告発ということではなく、世界企業の連携・関係に国益が絡んだ政治色の強い事件であることは明らかだろう。伝えられているゴーン氏の不正行為、報酬隠しや他国にある複数の邸宅の会社負担、支出などは、完全にゴーン氏の背任行為と言い切れるのだろうか。ゴーン氏は普通にヘッドハンティングされて来た一社員ではなく、沈没寸前の日産丸を救うために経営者として迎え入れられた人だ。大任を引き受けるにあたっては、当然に相応の成功報酬の提示がなされ、その他にもいろいろな条件をつけたうえで契約を交わしたはず。ゴーン氏の着任に当たっては相当の待遇保障があったと私は想像する。また、会社が提供したという各国の邸宅も、フランスではその邸宅に同国の大臣などが出入りしていたとの証言があり、そこで重要な交渉、取引が行われていた可能性がある。ゴーン氏と家族のためだけの専用別荘と決め付けられるのか微妙なところだ。仏国では日産のクーデターとか陰謀論がにぎわっているという。日産の西川社長は会見で経緯を説明し、内部通報により半年以上前から続いていた極秘調査のなかでここでのゴーン氏の逮捕に至ったと、氏の逮捕は検察との連携のうえで捜査による公権力の行使であるということだっだ。しかし、私は事の最初から政府がかかわっていたとみる。今年2月、ルノー側主導によってゴーン氏による日産とルノーの経営統合の方向性が明らかになった。仏政府はルノーの大株主で強い影響力をもっている。この時点で日産生え抜きの経営陣は日産消滅の危機を憂い、密かに安倍政権に相談をしたのではないか。それでその危機を取り除くために、ゴーン氏の日産からの追い出しを政府とともに進めたのではないかと私は推理する。ゴーン氏逮捕後の仏マクロン大統領のコメントは落ち着いた冷静なものだった。ゴーン氏の逮捕は予め日本政府から仏政府へも秘密裏に知らされており、すべて周到に準備された上での執行だったと思われる。さて、今後この事件はどのように推移していくのか。マスコミでは、ゴーン氏は徹底抗戦し日産にリベンジを果たすのではないかとの観測がある。しかし私は、事件はソフトランディングするのではないかと予測している。それはこの問題に日仏両政府が(たぶん)深くかかわっているということだ。この事件が今後長引くことは日産・ルノーの関係、両国の国益にとって決して好ましいことではない。私は両社の今後の関係、あり方についてすでに両国政府の間で内々に合意がなされ、両社の一部経営陣もそれを受け入れているとみる。ルノーでゴーン氏の地位が保留になっているのは、仏政府と会社の立場上の措置だ。勾留中のゴーン氏を、在日本フランス大使が面会したと伝えられている。これは異例のことで、大使が直接面会したということは、ゴーン氏に対する仏大統領からのメッセージがあったと考えられる。それには今回の問題が両国の政治問題になっているとの内容が含まれているはずだ。ゴーン氏が日産を追われたことで問題の本質はすでにクリアされており、その目的は達成されているのだ。ゴーン氏や同時に逮捕された側近のケリー氏がいくら個人的に抵抗しようとも、流れは元に戻らない。今後両氏に権力と長く争うことの得はないのだ。事件の軟着陸を予測する理由はもう一つある。10月の内閣改造で法務大臣に若手の山下貴司氏が任命された。彼は検察官として東京地検特捜部にいた人であり、捜査を進める特捜部検事やゴーン氏の弁護人に就くと報じられた大鶴基成氏(元東京地検特捜部長)とは元同僚であり先輩後輩の関係がある。つまり、捜査・弁護・政府(閣僚)の三者が特捜部サークルで占められたのだ。これは何を意味するのか。外交がらみで政治色の強い事件には、法や判例にまったく沿った結果を出せない場合がある。その点、関係当事者が意思疎通をしやすい構成になれば、政治の都合による決着、結果を導きやすい。大鶴氏が弁護人になることにも、日仏両政府の意向、思惑があるはずだと私はみる。山下議員が法務大臣に任命されたとき、マスコミの一部はこれを自民党石破派に対する嫌がらせではないかと報じた。しかし実際には、この事件や困難な外国人材拡大法案(入管法改正)の審議に対応するための適材適所であったというわけだ。自動車産業はどこへ向かうのか(インタビュー)【電子書籍】[ カルロス・ゴーン ]