お月さま
ずっと昔。
私がまだ4、5才だった頃。
その頃は京都太秦の雰囲気のある長屋に住んでいて、
台所は玄関からずっと縦に細長く裏庭まで抜けていた。
天井が高く、裏庭から入る光が台所に影をうんで美しかった。
母はいつも元気に楽しそうにその台所に立っていて、
はんなり暗い台所は母のあたたかな印象しかない。
お風呂が家にはなく、夏の暑い日は庭で行水。
あとは近くの銭湯まで、風呂敷に湯桶つつんで、
みんなで手をつないで、てくてく歩いていく。
いつも、空にはお月さまがいて、いろんな話しながら歩いたなぁ。
「お月さまは、どこまでいってもずーっと見守ってくれてるんよ」
へぇー。すごいなぁ。
私たちは、歩いては見上げ、歩いては見上げ。
本当にお月さんはどこまでもついてくるなぁと今でも思う。
*
2才になったこうちゃんは、絵本からおつきさまを意識するようになって、
日が暮れるのが早くなった秋ごろから、おつきさまを追うようになりました。
おつきさまにこんばんは、とあいさつするの。
8才のお兄ちゃんはやさしくて、一緒にあいさつにつきあってくれてる。
「お月さまは、どこまでいっても、ずっとこうちゃん見ているよ」と私。
こうちゃんもまた、歩いては見上げ、歩いては見上げ。
小さなお話 enpitsu doll