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カテゴリ:日常
朝5時半、いつもならこの時間にベッドに入ってもおかしくない。 前日ラブリーは8時きっかりに夜勤スタッフに引き継ぎをし、サッサと帰って来た。 西日暮里で千代田線に乗り換えの時に、偶然、竹子に会った。 竹子は当然のように、飲みに行こうと誘ってくる。 「ごめんね、明日、用事があるのよ。早く出かけるの。」 「あっ、デートですか?だれと、だれと?高田さん?キョージュ?」 そっかぁ…竹ちゃんは、ウィニと私が付き合っているのを知らないんだった。 「うん、そうなの。ちょっとカレシと遠出するから、朝早いの。ごめんね、今日は寄り道しないで帰る。」 『カレシ』という抽象的な言葉でぼやかした。 ウィニーとの付き合いを隠すつもりはないのだが、ウィニーファンの竹子には言い難い。 家に着いたのは9時過ぎ。 日帰りで、特に荷造りもないのだから、充分眠れる。 着て行く服を準備して、ゆっくり入浴。 子供達とおしゃべりする時間もとれた。 5時半にアラームをセットしてあったのに、目覚めたのはまだ5時を少し回ったあたり。 ウキウキしてるから、お目々はパッチリ。 外はまだ真っ暗。 ここでまた寝てしまったら、絶対、寝過ごしちゃう。 洗濯機をまわし、家事に取りかかろう。 洗濯物を干し、子供達がつまめるように軽食を用意し、7時に家を出た。 東京駅には7時40分に着いた。 新幹線の時間は8時30分、のんびり屋のラブリーにしては快挙だ。 ウィニーからも、心配して、何度もメールがあった。 電車慣れしてないラブリーに、降りる駅まで指示のメール。 「東京駅だよ。」 「え?ウィニ、東京駅まで迎えに来てくれたの?」 「まさか!降りる駅だすよ。」 「なあんだ、あははは、あははは。」 ラブリーがメールで「あはははあははは」と入れるのは、よほど機嫌のよい時。 付き合い始めてそろそろ1年になるが、まだ3回くらいしかない。 1人で時間をつぶすにも、半端な時間…。 タバコの吸える喫茶店まで行ったら、新幹線のホームまで戻ってくる自信がないし。 そうだ、名古屋は初めてなんだから、ガイドブックかなんか買わなきゃ。 新幹線の改札口の正面にある本屋で観光の雑誌を買った。 8時になり、ウィニーがメールで「ホームに喫煙所がある」と知らせて来た。 そろそろホームに上がったほうが無難だろうと、改札を通った。 寒い!! なんて寒いの! この日の東京の最低気温は2.3℃。 吹きっ曝しのホームはまるで氷点下。 喫煙所で1本も吸い終わらないうちに、指先が麻痺してくる。 「指が痺れてくるくらい寒いよー。」 すぐに返信。 「岡山は寒くないよ。」 ムッ、こっちは寒いんじゃい! ラッキー!キオスクでホッカイロ、売ってる。 自分用に大判を2つ。 ウィニは暑がりだから、必要ないわね。 ラブリーが乗るのは8時30分発の『のぞみ17号』、名古屋は10時13分の予定。 ウィニーは岡山発8時26分、『のぞみ6号』で、名古屋10時9分着、ウィニーのほうが、ほんの少し早い。 20分近く待って、やっと、新幹線の中に入れた。 中は暖かい、ほっとするーーー。 ウィニによると、名古屋も寒いそうだ。 ホッカイロを貼るタイミングを調べなきゃ、検索、検索。 8時30分 東京発 8時36分 品川着 8時48分 新横浜着 10時13分 名古屋着 えっ?新横浜まではチョイチョイ停まるのに、新横浜から先は1時間半も停まらないの? 停車駅をホッカイロ・タイムの目安にするのはあきらめたほうがよさそう。 新横浜あたりで貼ったら、新幹線の中で汗ダクになっちゃう。 携帯のアラームを9時40分にセットした。 時間になったら、トイレでホッカイロタイム。 駅の本屋で買った名古屋の観光雑誌をめくる。 ちょっと口元が緩む。 旅行じゃないけど、うれしい。 本当は初日から一緒に行きたかったが、仕事があっては無理。 付き合う前から、ウィニー1人で出張の度に、「本当は誰かと…」と疑っていた。 口に出せないヤキモチ。 今日は私が一緒。 誰か連れて行ってたら、名古屋まで私を呼んだりしない。 「誰か」というのはただ1人…。 車中で何度もメールのやり取り。 新大阪で乗り込んできたグループが五月蝿い、まず何を食べようか、富士山は左だ、いや右だ、次は絶対泊まりで温泉に…。 そして、名古屋到着寸前の10時9分、 「お先に着いたよ。とりあえず北口改札に来て。」 とメール。 名古屋まで来て迷子になられたらたまらなかったのだろう、ウィニーは改札のすぐそばで待っていた。 ニコニコと手を振りながら。 お互いを見つけて、2人の顔が安心感で綻ぶ。 「まず、コインロッカー行って、それからごはんにしよう。これじゃ、不倫出張でしょ?」 と、ブリーフケースを掲げて言う。 「最近、見慣れたけど、身軽なほうがいいわね。帰りに忘れないようにしなきゃ。」 「忘れちゃったら、明日の朝一で取りに来なきゃ。俺が忘れたら、ラブリ、言ってよ、カバンって。」 「うん。忘れたら、また一緒に取りに来る!」 ブリーフケースをコインロッカーに入れ、とりあえず、朝食を摂るために、太閤通口の地下街エスカに行った。 エスカは、新幹線改札口から最も近い商業施設で、土産物店や名古屋飯が食べられる飲食店街が並んでいる。 観光客には便利な地下街だ。 ところがほとんどの店が11時オープン、すでに開いている店は特に名古屋的でもなく、「なんでわざわざ」感がある。 もうちょっとガマンして、朝昼兼用にすることにした。 駅周辺を散歩すればすぐだろう。 ラブリーの計画では、すぐに名鉄空港特急で熱田神宮に行き、それから昼食のつもりだったのだが、ウィニーの顔を見て安心のあまり、そのスケジュールは頭からぶっ飛んでしまった。 1人でいるのが不安でたまらないラブリー。 まして名古屋は初めて来た土地だから仕方がない。 太閤通口のある駅西側は、桜通口や広小路口側に比べると開発が大幅に遅れているが、通りを少し入ると昔ながらの商店が数多く残っており、気軽に名古屋の下町が体験できる。 『昭和』を感じさせる喫茶店があったり、古い造りのホテルがあったり…。 1時間ほどぶらつき、駅の反対側にある名鉄百貨店にある鰻屋に行った。 観光雑誌に載っていた店で、女性に最適なミニひつまぶしがあるのだ。 ひつまぶし以外にも食べたい名古屋飯があったので、量を少なく、種類を多くチャレンジしようと考えた結果である。 ところが開店30分前だというのに、すでに長蛇の列ができていた。 ウィニは、列ぶのが嫌い。 いつも、「列んでまで食べたくない」と口癖のように言う。 どうしよう。 「列んでるよ、ウィニ、違うものにしよう?」 ひつまぶしはあきらめよう。 「いや、これだけ列んでるんだ、期待できる。ここにしよう。絶対おいしいよ。ひつまぶしが食べたいんでしょ?」 「うん!」 席が空くのを待つにも、ちゃんとイスが50脚ほど用意されており、お茶のサービスもある。 30分ほどで、席に通された。 個室ではないが半個室風で、落ち着いて食べられる。 「ねぇ、さっき、隣に座ってる人達が言ってたんだけど、今日はこれでも、空いてるほうなんだって。」 「うん、俺の隣の人達も言ってた。ここは待つのを覚悟の店なんだって。期待できるね。名古屋まで連れて来たんだから、ラブリにおいしいものを食べさせたいしなぁ。」 うざくをツマミにビール、そして上うな重と上ひつまぶしを注文した。 小ぶりのミニひつまぶしにするつもりだったのに。 [つづく] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年05月06日 19時29分27秒
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