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カテゴリ:男と女の世迷い言(創作)
☆☆ これは、『創作』のカテゴリーです。「成田山詣」から始まる続きものです。ある男とある女、ある男に食らいついて離れないおばちゃん、その他の絡みあい。ドロドロしたお話しです。☆☆
「で、どこで産むのよ?里帰り出産とかになるの?じいちゃんとばばちゃんは知ってるの?」 「まだ知らせてないわ。検査して、異常がないことがわかってからのほうがいいかなと思って。」 「そうだね。検査の結果次第なんだしね。」長男が考え込むように言った。 「病院はね、○○病院。ハイリスクの出産を扱ってるんですって。最初に行った病院で紹介されたの。」 ラブリーの「ハイリスク」という言葉に子供達は重い表情になる。 そのたれ込めた空気を入れ換えるように末娘が言う。 「だよね、超高齢出産だもの。ギネスとかに載っちゃう?」 「残念でした。高齢出産のギネス記録は66歳のスペイン人よ。日本人では60歳ですって。」 「孫じゃん。」 「みんな、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。今の世の中では珍しいことだろうけど、大正時代ならちっとも珍しいことじゃないんです。大正時代には4千人近くの赤ちゃんが50代のママさんから産まれてきたそうです。」 「名前とか、決めたの?キョージュは国文学の先生なんだから、立派な名前を考えてるんでしょ?」 もんじゃの後はお好み焼きに移行して、そろそろ満腹になってきた。 「そうか…名前ね…名前は前に決めなかったっけ?」とラブリーに聞くウィニー。 「治療に行ってた時ね、女の子ならキョージュのお母さんの名前で、男の子なら干支の一文字を入れるって言ってたわよ。」 そして今度は子供達の方を見て続けた。 「キョージュのお母さん、マミーのニックネームと同じ名前なのよ。りんっていうの。」 「へえ、偶然?でも女の子のリンちゃんはいいけど、男の子だったら巳年でしょ。ヘンだよ。」と長女が顔をしかめる。 「だね。あんときゃ、てっきり辰年に生まれると思ってたもんね。龍之介とか龍一とかさ。巳年になるとは思ってなかったからね。」とウィニーも困った顔になった。 「いやよ、巳之介なんて。時代劇みたい。いじめられるわ。」ラブリーが真顔で言う。 ただでさえ、両親が高齢なのだから、それだけでもイジメの対象になりかねない。 「なんとか巳って、後ろにつけたらどう?」と子供達。 「干支にこだわらずに、吉をつけてもいいんだよな。俺も父親と『吉』つながりだから。」 「へえ、キョージュの家って、代々キチがつくんだぁ…。」 「んー、キチがつくって言い方、印象悪いなぁ。」 「あはははは、でも干支にとらわれずに吉もいいかも。まだ時間はたっぷりあるから、いいお名前考えてね、父上。」 「父上って呼ぶの?」「俺達みたいに、ダディマミーじゃなくて?」と子供達。 ダディという響きにラブリーは顔をくもらせた。 「ダディって言葉、あんまり好きじゃないの。」 子供達がラブリーの顔を覗きこみながら聞いた。 「それはつまり、俺達のダディがダメ男だったから?」と子供達。 「ラブリ、元ダンナを思い出すからじゃないの?」とウィニーも聞いてくる。 「ううん、違う。あの人は確かにダメ男でダメ夫でダメ父親だったけど、理由はそうじゃない。」 そしてラブリーは続けた。 「違うわよ。いまさらあの人のことは別に思い出しもしないけど、ダディという言葉であなたを呼びたくはないの。」 「そりゃまたどうして?」 2杯目のコーラを一口飲んで、少し厳しい顔つきでウィニーを睨みつけながらラブリーが言った。 「ピンスケとピンスケのガキにダディと呼ばせてただろが!」 「あ…あれはママゴトみたいなもんで…」 「だあから、あたしゃあ、あんたをダディとは呼びたくないんだよ!」 「あ、あの、このコーラ、お酒入ってない?」 「あはははは、冗談よ、冗談。でもダディとは呼びたくないのは本心。タラのこと、後味悪いもん。それに、父上ってよくない?」 タラのことを知らない子供達はキョトンとした顔をしている。 子供達はウィニーの異性関係が華やかだったことは知っているので、タラというのが以前のカノジョの中の一人であることは想像できるが、ラブリーとそのタラという女性との間でどういうやり取りがあったのかまでは知らない。 遊び馴れていない長男にいたっては、タラが女性の名前なのか鱈なのか、はたまたピンスケとは何なのかも検討もつかなかった。 「父上か…いい響きだな。」 「ね、いいでしょう?それにあなた達も同じダディじゃ区別がつかないでしょ?」 「区別をつけるのは賛成としても、まだキョージュのほうがピンとくるなあ。切り替えには時間がかかりそう。」 「僥倖」とは、思いがけない幸いや偶然に得る幸運のこと、または幸運を願い待つことを言う。 ウィニーとラブリーはようやく僥倖にめぐりあった。 人工の手段をとらずに、還暦の年にウィニーは父親になる。 [僥倖 おわり] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
僥倖[1]-[10]、いつもどおりプリントして図書館で読ませていただきました。
新たな、大きな展開がありました。 次にまた期待したいと思います。 (2013年10月06日 09時55分40秒) |
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