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「ヒューザー小嶋社長が139億円求め全国の自治体を提訴」
こんな記事がニュース番組を賑わしたのが4日前。 中田横浜市長をはじめ、全国の首長が「逆ギレ」「盗人猛々しい」と不快感と憤りを隠さない。 要は139億円もの税金を訴訟で勝ち取り、今回の不祥事の保障金にあてるプランだと思われている。 ・・・さて、こんなトンデモ提訴が果たして有効なのか? 意外に思われるかもしれないが、ヒューザーがこうやって訴訟すること自体はそれほどトンデモとはいえないのだ。 ヒューザー側の提訴内容をまとめるとこんなところである。 1.ヒューザーが建築士に依頼してマンションの設計をさせた 2.建築士の設計は建築基準法に違反する内容だった。(=耐震偽装) 3.違反マンションを「知らずに」売ったため損害賠償を求められた。 4.建築基準法に違反していることを見抜けなかった自治体が悪い。(=注意義務違反) 5.金払え 1、2は建築基準法違反としてはよくある事例である。 問題は3、4である。 そもそも「3.違反を知らなかった」の時点でおかしいのはだれでも気づく。 ヒューザーは耐震偽装を知りつつマンションを販売したことが問題とされているのだから。 ただ、これは現況では「疑い」にとどまる。 ヒューザーは住民に会社側のミスを認めているが、その認め方はあくまで 「ミスを見抜けないまま販売して申し訳ない」としている。 小嶋社長は「違反については知らなかった」と言い訳している。だから、3については一応スジは通っている。 んなわけねぇだろ!! というのが常識的な反応だろう。 それはそのとおり。 もし、知らなかったという発言がウソだと判明した場合は、まずヒューザーは提訴する資格がないとして「原告適格なし」となる。 と同時に裁判所で原告として「知らなかった」とウソをついたとして「偽証罪(刑法169条)」が確定する。 ほぼ同時にいま検察が捜査している耐震偽装を知りつつ、マンションを販売したという「詐欺罪(刑法246条)」もほぼ確定する。 はたしてヒューザー・小嶋社長が「知らなかった」のは本当かウソか?が争点となる。 「4.ちゃんと自治体が見抜いてくれなかったのが悪い」 ヒューザー側はこれを「注意義務違反」だという。 それで被害をこうむったのだから金を払って詫びろと。 今回の事件の大きな問題点として、住み家の安全保障という重大な業務を役所ではなく民間が行っていたということがある。 民間は営利のために業務を行うのだから、「安かろう悪かろう」はある意味当然だ。 最悪、公共の福祉(住民の安全)のためではなく、金をくれる依頼主の利益のために働くという不法行為をやりかねない。 そのため、建築基準法では3つの段階で行政が介入する。 設計図のチェック(建築確認) 工事のやり方のチェック(中間検査) 出来上がりのチェック(完了検査) このうち、中間検査と完了検査は民間会社が「合格(不合格)でしたよ」と報告した結果を受けて対処する。 つまり、合格、不合格は行政は判断しない。 この時点では行政の注意義務そのものが発生しない。 問題は最初の建築確認の段階だ。 建築確認をした民間会社は「こんな確認をして合格にしました」と行政に報告する。 ここで、行政はその内容をチェックし、合格にしてよいかを審査できる。 「特定行政庁は、前項の規定による報告を受けた場合において、第1項の確認済証の交付を受けた建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは、当該建築物の建築主及び当該確認済証を交付した同項の規定による指定を受けた者にその旨を通知しなければならない。」 ヒューザー側は「このときちゃんと不合格にしてくれたらウチは違法マンションを売らずにすんだのに!」というわけである。 なるほど、ヒューザー側が違法を知らなかったというのなら、それはそれで言い分としては分からなくもない。 確かに行政の不注意でヒューザーや住民が損害をこうむったといえる。 では、これは「注意義務違反」に該当するか・・・ ヒューザー・小嶋社長はもしかしたら注意義務違反の意味をカン違いしているんじゃないか? 現在の「注意義務違反」の一般的解釈はこのようなものである。 「何かしら悪いことが起こることをちゃんと知っていたのに、な~にも対処しなかったので被害が発生(または拡大)した。」 つまり「不注意」のことではなく「非注意」のことなのだ。 非注意という言葉が分かりにくかったら「放置」「無視」と考えてもらっていい。 行政が違反を見落としたのはもしかすると「不注意」になるかもしれないが、違法と知りつつ「放置」や「無視」したわけではない。 これでは注意義務違反は成立しない。 ここで万一、注意義務違反が成立する可能性があるとすれば、不注意がよっぽどひどく非注意に近い場合だ。 例えば、民間会社からの報告書をぜんぜん審査せず「はいOK!」と見過ごしたような場合。 これはもはや不注意ではなく放置といえる。 ただ、このタイプの注意義務違反を認めるのはかなり難しいだろう。 行政というところはハンコ社会である。 ヒラからトップまでずらりとハンコを押してはじめてOKとなる。 営業許可など、いろんな許可証をもらうのに何日も待たされてイライラした人も多いだろう。 「みんなでがんばって審査してたけど、残念ながら発見できませんでした」といわれればアウト。 現在の建築基準法や行政システムの問題ということにはなるかもしれないが、ひどい不注意とまではいえない。 注意義務違反は不成立。 ヒューザーが原告不適格として門前払いされる程度ならまだかわいい。 いや、まだそのほうがいい。 裁判が進み注意義務違反が不成立になり、裁判費用が全額自己負担になるどころか、偽証罪や詐欺罪に問われたり、逆に反撃提訴を食らう可能性が極めて高い。 そういう意味では、この勝ち目がゼロに近い提訴はやはりトンデモ提訴といえるのかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006/02/04 01:41:59 AM
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