○「0.5票」ってナニ?
ある投票結果の詳細を見ていたら不思議なことに気づいた。
「日本党 山田太郎 10050.523票」
選挙の票数には小数点以下があるのだ。
不思議に思って、役所に勤めていて選挙の開票に従事したことのある友人に聞いたら、面白い答えが返ってきた。
「それはアンブン票だよ」
「アンブン票って?」
「疑問票のことさ」
「疑問票って、字が読みにくい票?」
「それもあるけど、間違った票やふざけた票がほとんどだよ」
「疑問票があるとなんで0.5票があるの?」
「つまるとこ死に票を出さないため。判定しにくいときは票を分割するから」
按分(アンブン)票とは、つまりこういうことらしい。
その選挙には「桜井 太郎」と「桜井 花子」が立候補していた。
ある投票用紙に「桜井○○」と書いてあった。
名前○○の部分は字が消えていて判読できない。
どちらの候補の票とも読める。生徒会投票だったら無効票だ。
しかし公職選挙法による選挙では違う。
山田さんの票とも花子さんの票とも読めるときは、1票を公平に分割するのだ。
だから1票÷2人=0.5票が生まれるのだという。
(実際には得票数に応じて配分する)
○意外に大変(?)開票作業で公務員は大わらわ
疑問票ついでに、市役所の友人に選挙にまつわる興味深い話をいろいろ聞いた。
伝聞なので私の勘違いもあるかもしれないが、是非紹介したい。
いろいろ聞くと、開票作業は私が思っていた以上に重労働らしい。
だいたい投票が終わって夜7時ごろ体育館に集合し、夜中の2、3時まで休憩ナシのぶっ通しで全ての票を仕分けるという。
その市の開票作業が他の市より遅いと、市長からお叱りがあったりする。
さらに選挙管理委員会や警察官が監視し、新聞記者が見守る中なので、休憩ナシ、サボりなどとんでも無い状況だそうだ。
実際には開票が完了するまで、体育館から一歩も出られず、休憩はなく、トイレと水しか許されない。
トイレは委員か警官が監視している。
個室に入って長いと事情聴取を受けることもある。
水も警察官か選挙委員の見える所でしか飲んではいけない。
すべては不正を防ぐためとはいえ、厳重な監視体制だ。
そんな作業を拘束時間にして7~9時間。
日当は1万円ぐらいと聞いたので時給約1300円ぐらい?
深夜作業の上に、翌日が平日なら通常勤務。
きみ、時給1300円でやるかい?と言われたら私は絶対やらない。
本当は役所の人もほとんどの人が割に合わない開票作業を断りたいそうだ。
だが、指名=命令に近いのでまず断れないらしい。
たまに「公務員なのに、なぜ開票作業で手当をもらっているのだ!」という乱暴な人もいる。
そもそも、選挙は自治体の仕事ではない。
選挙管理委員会の仕事であって、自治体職員の仕事ではない。
本当は選挙管理委員会の職員がやる仕事だ。
もちろん外部委託しなければならないが、民間人では不正の問題があるから、公務員に依頼している委託業務である。
いわば、選挙管理委員会の仕事を自治体が依頼されて職員を派遣する「(強制)アルバイト」だ。
それを「公務員なのに・・・」というのは、あまりに公務員に対する偏見と妬みが過ぎ。
無知だし、マスゴミに踊らされすぎだ。
ちなみに、1万円の日当の根拠は、民間の事務系派遣社員を元に算出しているらしい。
○まったく使えない「開票マシーン」
それでも人件費を浮かせろ!という世論の手前、自動読み取り機を毎年投入するのだが、現時点ではぜんぜん実用レベルでないそうだ。
とにかく判定不能や誤判定が多く、人間がダブルチェックしないと、危なくて使えないという。
さらに費用対効果として考えて「人力より遅い」
自動読み取り機は、多くても年に数回しかない選挙のためだけの機械である。
故障対応のためにエンジニアもセットになってくる。
そのため、一回につき数十万円というびっくりするほど高額なリース料だそうだ。
だが、自動読み取り機は、紙詰まりや破損をしないため、スピードに制限がある。
一方(私感だが)公務員は難関試験を突破しているだけに処理能力はおしなべて高い。
本来のポテンシャルを発揮すると、一日30万円でリースされる自動読み取り機より、日当1万円の公務員10人の方が速いそうだ。
自動読み取り機がいきなり故障しエンジニアが修理している間に、人力のみで開票作業が終わったこともあったそうだ。
そして、終了時間はむしろ早かったらしい。
○一票たりとも死なせない努力・・・汗の結晶「0.5」
開票の話を聞いていると、私たちが思っている以上に選挙というのは厳粛で厳密なイベントだと感じた。
1枚の投票用紙は、なんと合計5回も確認された後はじめて1票になる。
作業者は100枚チェックするごとに自分の印鑑を押して、次のチェック部門に渡す。
作業に責任を持つわけだ。
間違いがあったらやり直し、帰宅は遅くなる。
次の日が仕事ということもある。
やり直しが目立つと新聞に書かれたり、上から怒られたりする。
しかし、開票が遅くなる原因は仕分け作業ではなく、疑問票の判定に時間がかかるからだという。
候補者や政党名の誤字、汚い字。。。虫眼鏡を使っても分からないことがある。
なにより「いたずら」が多い。
比例区で「○○党」でなく「鳩山由紀夫」と書いてあれば民主党に一票が入る。
麻生太郎や鳩山由紀夫ならいい。
だが、中には「シャア・アズナブル」や「浜崎あゆみ」などと書いてくる輩が居る。
しかし開票者たちはふざけていられない。
どこかの政党に「シャア・アズナブル」という人がいないか、議員名簿を数人で必死に探すそうだ!?
「シャア」ならまだわかりやすくていいが、「浜崎あゆみ」は紛らわしくて困るらしい。
「浜崎」という議員は実際何人かいて、その人のことかもしれない・・・となるからだ。
かくして、ひたすら文字を追い、紙をめくり続ける作業を数時間ぶっ通しで行い、真夜中の眠い頭で疑問票を判定する。
開票に従事する方々には頭が下がる思いがする。
そもそも、開票を民間に任せられないのは、議員や政党との癒着などの危険があるからだ。
もし民間に任せるとしたら、委託先は派遣会社になるだろう。
しかし、派遣会社に開票を依頼してしまったら、継続的雇用制度を破壊する議員に有利になるよう操作するかもしれない。
中立・公平を望むなら、私はやはり公務員の方に開票をお願いしたい。
○国政にせめて一太刀! 「たった一票」のすごさ
話を聞いて、選挙に従事する人たちの苦労を思うと同時に、やはり選挙はそれだけ大事なイベントなのだとつくづく実感した。
選挙というのは事実上、国民が国政に参加できる唯一の手段なのだ。
よく、「自分が1票入れたところで・・・」という人がいる。
その考えを「あなた」が止めなければならない。
多くの人が、今の日本政府に対して不満があるだろう。
例えば、景気雇用対策が経団連の意向に左右され、大企業優先で中小企業がないがしろにされてるという。
格差社会で、高額所得者とその他労働者の賃金格差が不当に広がりすぎているという。
あるいは公務員が厚遇されすぎているから、民間との格差がないようにすべきだという。
・・・どれもごもっともな不満だ。
では、いったいなぜ、「政党政治」という国民の意思が反映され易いはずの制度下で、多くの国民の願いが国政に無視されるのか?
いったいなぜ、政治家や政党は大衆の味方とポーズばかりで、実際には大企業ばかりを優先し、格差社会を容認しているのか?
すべては、「あなた」のイージーな諦めと、ほんの数十分の労力を惜しむ怠惰が原因だ。
日本の事実はこうだ。
・中小企業に勤める人と、大企業に勤める人の比率は8:2
・民間企業員+自営業と公務員+団体職員の比率は10:1
・年収400万円未満の人と、年収1000万以上の人の比率は20:1
一般に「弱者」と言われる人々は、実は圧倒的多数派なのだ。
しかし、次のことも事実だ。
・国政選挙に行かない人は、有権者の35~40%
たとえば、マニュフェストおよび公約で中小企業支援、格差是正を最も前面に打ち出しているのは日本共産党だろう。
だが、数年後の存続も危うい中小企業に勤め、年収350万円の「あなた」はこう言う。
「日本共産党ってなんかイメージ悪いよ」
「政権なんてとれないし、だいたい実行力もないだろう」
そう言いながら“無難”と思い込んでいる自民党や民主党に“なんとなく”入れるか、家から出ない。
一方で、選挙において圧倒的少数派である大企業、公務員の人々は、自分たちの権益を守ってくれる政党・政治家を厳選し、確実に投票する。
あの売国奴集団・社民党が、それでも議席を持っているのは、自治労(公務員の労働組合)と親密だからという説もある。
役所勤めの友人によると、自治労に入っている公務員(多くは単純労務職)の投票率は「たぶん95%以上」らしい。
経団連にせよ公務員にせよ、既得権益を守っている人間は、民主主義の原則にそって保身をしているのだ。
実にきちんとしている。
正々堂々で見上げたものではないか。
投票所にすら行かずにグチだけこぼす人々に比べれば、百倍「参政権」の意義が分かっている。
なにも、難しいこと、いろんな事を勉強するべき、と言うわけではない。
「どうせ一票」なら、難しいことはさておき、とりあえず目先でいいではないか!と思う。
日本共産党や日本新党が第一党にならなくてもいい。
というか、なるわけがない。
向こう十年、第一党には間違いなく自民党か民主党がなる。
だが、2009年8月現在、たった9議席の日本共産党が20議席に躍進したらどうなるか?
民主、自民の議員を何人も打ち破ったらどうなるか?
いや、勝てなくても、自民、民主の候補に肉薄したらどうなるか?
おおよそ議員の考えることは一つだ
「どうやれば議員でいられるか」
そこで、理想論ばかり並べるだけの弱小政党と思っていた党が急伸したら?
たとえ2大政党の議員でも「理想論」を無視できないと考える。
マニュフェスト・公約に「理想論」を入れなくてはいけないと考える。
公約だから実績を出さなくては次の選挙では負けるかもしれないと考える。
弱小政党とはちがう、2大政党だからこそ、そう考える。
それが引いては党の流れ、国政の流れを生み出すのだ。
だから、圧倒的多数派である「あなた」の一票が大事だ。
「あなた」が“よく知らなかった政党”の“理想論”に投じる一票は大事だ。
森元首相の「寝た子」発言は自民、あるいは民主の偽らざる本音だ。
だから「あなた」よ、国政に一太刀入れに選挙に行きましょう。
字が汚くたって、間違ったっていい。
開票作業者たちが「あなた」の票を死なせはしない。