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2022.03.24
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 焦げ臭い。第一声に思ったのはそれだった。火事の後の燻った臭いに近い。

 出火こそしていなかったが、崩壊して見る影もなくなったかつてのリビングには大きな穴がぽっかりと空き、周りに亀裂が走っていた。立っているだけで地盤が崩れてくる。いつ崩落してもおかしくない状況だ。

 不意にすぐ脇の茂みでガサっと何かが動く音が聞こえた。とっさに崩れかけた壁の影に隠れる。

「まるで落雷にでもあったかの様な跡ですね。」

 黒い服装の人物が2人、何かを抱えながら歩いている。

「ええ、全くそうですね。けれど、この2人は運が良かったです。大きな怪我もしていない様ですから。」

 ーこのまま近くの病院へ運びましょう、と話しているのが聞こえ、壁の影から目を凝らす。

 ガタイのいい男が2人、それぞれ人間を抱えて歩いている。見覚えのあるあの服は父と母だ。所々小さな切り傷はある様だが、それ以外は大丈夫そうだ。大人しく抱えられている所を見ると、今は気絶している様だ。

 ー助けなきゃ。

 でも、相手は自分よりも大きく、見るからに強そうだ。出て行った所で到底勝ち目は無い。

 ーだけど…。

 ガリッ、躊躇して思わず後ずさると足に何かが当たった。瓦礫に埋もれていたそれはお守りとしていつも肌身離さず付けていた銀色のネックレスだった。

「片羽の鳥(コンシルバート)…。」

 片方しかない羽を広げ、力強く羽ばたく姿に憧れ大切にしていた物。ふっ飛ばされた時に鎖(チェーン)が取れてしまったらしい。そっと拾い上げ、首に掛ける。ほんの少しの日常が戻ってくる。ネックレスを握り締めると自然と身体に熱が帯びていくのを感じた。

「片羽の鳥(コンシルバート)、ボクを守って。」

 壁から勢いよく飛び出す。そのまま駆け出して体当たりを……

 そう思っていたボクの身体は飛び出したのと同時に、その勢いを殺す事なく全く正反対の草むらへと引きずり込まれてしまった。ドスン、と派手な音をたてて引っくり返る。

「いった……。」

 頭を嫌というほど打ち付けた性で目の前がくらくらする。

「ん?誰か居るのですか?」

 男の1人が振り返る。

 ー不味い…。そう思った瞬間、誰かに手で口を塞がれた。苦しくはなかったが、塞いでいるその手は若干震えていた。その時、ガラガラと家の崩壊する音が耳に届き、巻き添えを食いたくなかったのか、気のせいだと思ったのかは定かではないが、その場を足早に去っていく足音だけが聞こえた。

「待って!」

 口を覆っている手を乱暴に払い除けて叫ぶ。が、崩壊する音に掻き消されてしまい、その声は誰にも届く事は無かった。

「そんな…父さん、母さん…。」

 呆然と立ち尽くす。言葉も出てこない。こんな気持ちは生まれて初めてだ。一体全体どうなってるんだ。
しばらくして、背後からガサッと草をかき分ける音がした。

「あのー、すみませんがよろしいでしょうか。」

 空気を察してか、控えめな声色で華奢な少女が草陰から様子を伺っていた。





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最終更新日  2022.03.24 23:07:26
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