2007/11/13(火)20:59
Red Vapors #33 ドラゴン魂 in 小田原(7)
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Red Vapors #33 ドラゴン魂 in 小田原(7)
07
おびただしいと感じるほどのドラゴンの群。
黒いそれに人は乗っておらず、無機的なデザインはデルタ戦闘機の無慈悲さ、あるいは実験生物の異様さを思わせる。
目的も分からぬままその進攻を許したことに、アキラは歯噛みした。
敵の最初の攻撃を受けた市民のドラゴンが、失速し、墜落していく。
うち1匹は無事に自力で緊急着陸を開始したが、もう1匹はあきらかに地面に突進しようとしている。空間失調症だ。
「救助はあたしやるから!」
キヨラの白いドラゴンが緊急離陸してきた。
「頼む!」
アキラは返事しながら上を見た。
黒いドラゴンの群は何をしようというのか、徐々に四方八方へ展開していく。しかもなぜか、逃げ惑うレース参加者達を追い立て始めたのである!
それは、暴走族が『狩り』と称し、一般人に危害を加える行動によく似ていた。決定的に違うのは、どれも無人であること、それから爪が10本以上あることだ。
「何なんだよ連中は!」
コウが叫ぶ。
だが連中が何物だろうと止めなければ!
空の下、ドラゴンを駆り、翔ぶ。
15時18分。小田原・相模湾岸、300メートル空域。
戦闘開始――。
とにかく無我夢中で、比較的低高度にいる奴に飛びかかる。
蹴る!
『ドムッ!』
「ゲェェ!」
時速300キロのキックにドラゴンは吹っ飛んで失速し、立て直す暇もなく海に突進。しぶきをあげた。
だが高威力の攻撃は、反動も大きい。アキラは喜ぶ暇もなくクラクラした。
「おまえの相手は俺だろうが!」
ふと、無視されて怒ったたしきジェイクが、突進してきた。
ドラゴンの尾を大きく振り回し、それが鞭のようにしなる!
『ぶおん!』
身体を横に倒して避ける!
こちらの顔先数センチの場所を通り、髪が数本、パラリと舞う。首が吹っ飛ぶかと思った。
「警察のお兄さんは忙しいんだ!」
アキラは恐怖を堪えて叫び返す。
最大速度を命じると、『ブワァン』という羽音とともに、目の前が真っ白になりそうなほどの急加速。スピードメーターが一瞬450を越えた。
別のドラゴンに急接近して爪を出し、引っ掻き切る構え!
狙うは、主翼の内側上面。ここを裂くとドラゴンは高度を保てなくなるのだ。
『ざりっ!』
「キイイイイ!」
が。
悲鳴を上げたのはルプーの方だった。爪の付け根が変に曲がり、しかも逆に相手の翼には傷1つ付かない。
「かてぇ……!」
まるで金属だとアキラは感じた。
その直後!
『バヒュン!』
次の行動へ移ろうとしたこちらの直上を、ドラゴンが横切る。
とっさに降下!
『ダンッ……!』
ところがその直後、こちらを竜弾がかすめた! その風圧でフライトジャケットがはためく。
「……!?」
ドラゴンが、単独で自らフェイント攻撃を仕かけたのである。
意外と頭がいい。
見ると、市民を追い立てるドラゴンの幾匹かが、自分とコウそれぞれへ向かってくる。
全部が一斉に同じ行動をとらないことから、統率もとれているようだ。
あきらかにコンピューター統括。しかも旗竜らしき個体もないことから、自衛隊用と同じピアトゥピア・ネット方式制御と思われた。
大勢で来られたとき一番駆逐が難しいタイプである。
「いったん引かないとヤベぇな、多勢に無勢だ」
コウは敵の攻撃を回避するように、大きく回り込んでいた。
「ああ。とにかくまず一般市民を逃がす。避難勧告を出すぞ」
避難勧告は一度出すと周囲が大混乱になるので、アキラとしては避けたかったが……。
地上を見やると、ギャラリーや通行人達は、まだ上を見上げているだけだった。
何かの余興である可能性を捨てきれずにいるようだ。
と――!
「アキラ! 後ろ!」
突然のキヨラの通信!
「……!!」
『ぐおん!』
黒いドラゴンの一匹が、後ろから回り込んで捨て身で突進してきたのだった。
降下を指示! だが距離に余裕がない。――避けられない!
連中、やけに羽音が小さくて動きがつかみづらいのである。
「くっ!」
アキラは思わず目をつぶった。
『パァァン!』
だが。予想された衝撃は、しかし来なかった。
「……!?」
ドラゴンはあさっての方向に飛ばされていく。見ると、接着剤のようなものがベッタリと張り付いていた。
それから、バタバタというヘリコプターの音。
「大丈夫か!」
それは神奈川県警のヘリだった。
「あ! 助かりました!」
アキラは返信した。今のはテロ対策用の粘着弾である。
県警の航空隊に警備を依頼したとスタッフから聞いていたが、それらしい。戦闘が始まって現時点で1分だから、まぁまぁの素早さだ。
何匹かのドラゴンが同時に突進してくる。
それと、ジェイクがもうすぐこちらに追いつく。
アキラはそれを見て、
「犯人逮捕に集中したいんで、市民の警護は頼んます! こっちの救急員を回します!」
すぐに頭の中で作戦を立てた。
「了解!」
「キヨラ、頼むぜ!」
「任して!」
「コウは俺とジェイクを挟み撃つ! 他は無視だ!」
「ほい来た!」
各自散開。
「ポリヤロォォォォ!!」
2度も無視されたのがそんなに悔しかったのか、ジェイクは叫びながら迫り来る。
だが数は2対1。
――勝てる!
アキラはそう思った。
だがそのときだった。
『パァァン!』
弾音が鳴る。
よろけたのは航空隊のヘリ。
側面にベッタリと粘着弾が付き、大きくふらついた。味方の誤射だ。
幸いヘリは落ちず、
「す、すまん!」
わびの通信が飛んだだけですんだ。
「……!!」
それを見てアキラは気づいたのである。レーダーのモニターが、いつの間にか竜影・機影で真っ白になっていることにだ。
砂浜を見れば、動かなくなったドラゴンが人垣に囲まれている。観光客のド真ん中に落ちたのだ。
――混戦状態……!
加えてもう1つマズいのは、ドラゴン達がジェイクまで標的にし始めていたこと。
「何すんだこの野郎!」
攻撃を受けた彼の反撃はまるでデタラメで、同時に落とされた2匹のドラゴンが……ついに民家を直撃した。
家は轟音を立てて燃え始める……。
「やめろ!!」
アキラの叫びと、巻き起こるパニック。
つづく
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