テーマ:水中写真(510)
カテゴリ:トンガ
ホエールスイム初日
昨晩見た満天の星空は夢幻だったのだろうかというくらいの荒天。 雲は低く垂れ込め、時より激しく大粒の雨が落ちてくる。 グレーに霞む空は、海との境目がわからない、 これではクジラのブローを発見する事は非常に厳しくなるだろう。 今回もガイド役をしてくださる、プロカメラマン越智隆治氏の話では 今年は例年に無く、クジラのブローが少ないそうで、 胃の痛む日々を送っているようだ。 しかも、悪い事は重なり、度々船のトラブルが発生している。 私が乗る船も前週は舵の故障で出港できない事があったようだ。 今回、海に出られるのは4日間、1日たりとも無駄にはしたくない。 幸い、船の修理も完了し、 風も船が出せないというほどでもなかったので、 予定時刻より少し送れての出港となった。 ゲストはみな、船の屋根に陣取り、ひたすら遠方を注視する。 しばらくして、シングルのブローを発見する。 泳げるかどうかを見極める為に、船をよせようとするが、 すぐに潜行してしまう。 それも、奇麗なフルークアップを見せてくれるという事もなく、 ヤル気無しに、なんとなく潜っていくといった感じ。 何度かそんな事を繰り返したが、 他のオペレータがー泳いでいたクジラを譲ってもらえることになり 結局このシングルクジラを諦め、移動を始める。 しかし、この譲ってもらえるはずのクジラには 既に何隻かの順番待ちの船が付いていた。 しかも、はじめに発見した船がなかなか、権利を放棄しない。 トンガのホエールスイム団体のルールでは、 1.5時間で権利を譲らないといけなくなっているそうなのだが。 結局、数時間の待機の後、やっと我々の番となった。 狙いは母子のクジラ、ほとんど移動することなく じっと留まっているようだ。 準備を整え、エントリーする。心臓が早鐘を打っている。 今年初めてのクジラとの水中遭遇に心地よいプレッシャーを感じる。 時刻は既に夕刻、相変わらず天気は悪く、海の中は非常に暗い。 しかも、透明度もお世辞にも良いとはいえない状況で、 撮影するには全く適さない海境だった。 母子のクジラと泳ぐ時は、 子クジラに与えるインパクトを最小限にするために 飛沫を立てずに出来るだけ慎重にアプローチする必要がある。 ゆっくり、ゆっくりと、クジラとの距離を詰めていくが、 その時間がもどかしく感じる。 やがて、大きな胸鰭が水中に白く浮いているのを見つける。 南太平洋産のザトウクジラの体色は、 おおむね、背面が黒、腹側が白い個体が多く、 その為、水中で彼らを探す場合に、 青白く光を反射している部分が手がかりとなるのだ。 クジラとの距離を詰めていくうちに、全体像が確認できるようになる。 デカイ!! この母クジラ、私が今まで水中遭遇を果たしザトウクジラの中では 群を抜く大きさだった。 特に腹回りの太さが通常のクジラの1.5~2倍はある感じがする。 その迫力に、ただただ見入ってしまう。 どうやら、母親は眠っているようだ。 そして、その周りと海面の間を子クジラが行ったり来たりしている。 子クジラは、母親の胸鰭ほどの大きさしかない。 巨大な母親と比べると、やはり幼く可愛く見える。 それでも体長4~5mはあるのだが。 しばらく、母子を観察した後、撮影に取り掛かる。 が、ここで、痛恨のトラブルに見舞われてしまう。 なんと、カメラのシャッターが下りないのだ。 モニターを確認すると、バッテリー残量表示が、 フル充電を示していたかと思うと、 次の瞬間には残量0を示したりといったことを繰り返している。 おかしい、カメラのセッティング時にフル充電を確認したし、 陸上での試写では問題は無かった。 水中でカメラのトラブルが起きた場合、どうする事もできない。 カメラは強固なハウジング(防水ケース)の中に収められており、 直接触る事は出来ないのだ。 しかたなく、操作できるスイッチ類を押してみたりするが、 症状はなにも改善されない。 目の前には、念願の母子のクジラがゆっくり泳いでいるというのに なにも出来ないもどかしさ、時間だけがただ過ぎていく焦り。 撮影は断念して、観察に集中するしかないかと、諦めかけたが、 カメラを下向きにして、その後横向きにするとしばらくの間、 電源が正常に供給される事に気づく! シャッターチャンスに制限はあるが、これでなんとか撮影できる。 ただ、かなりの時間が経過しており、 まだ順番待ちしている船もあるので、残された時間は少ない。 そんな、状況で、撮影したのがこの写真。 先ほど書いたとおり、暗く濁った海では、 写真にクオリティーを求める事はできなかったが、 撮影できただけでもラッキーと自分に言い聞かせた1日だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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