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あれこれ備忘録 ホスピス医のこころを支えるもの

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粗忽のたかびー

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2024.01.04
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テーマ:心のケア(1136)
カテゴリ:緩和ケア

柏木哲夫とホスピスのこころ [ 柏木哲夫 ]

78歳男性、Aさんの話。14年前に煙草好きが災いしたのか最初の肺扁平上皮がんの手術をがん拠点病院の呼吸器外科で受けた。その後は肺気腫も進行するなか、肺がんも度々再発し計4回手術を受けた。最後に手術を受けたのは3年前。
その後、脳梗塞、心筋梗塞を患い、同じ病院の神経内科、循環器内科も受診するようになった。そして、今年7月に肺がんの再発を指摘された。しかし脳梗塞の後遺症があるし、心機能もよくなく、肺気腫も悪化して在宅酸素療法も受けており、手術は適応外と判断された。
8月にその呼吸器外科からいきなり、神経内科、循環器内科の紹介状をもつけて、あとは貴科的によろしく、と当ホスピスに紹介してきた。

当ホスピスでは、元気なうちに一度入院してもらって登録患者になって貰えれば、あとは全て診ることにしている。すべての薬を処方するし、困ったときの緊急入院、レスパイト目的の入院、在宅療養を希望したときの訪問診療、往診も引き受ける。
そう説明して登録のための体験入院を勧めたが、嫌だと。
とにかく入院生活はもう二度と嫌だと。ただ、呼吸が苦しいのはなんとかしてほしいと。

それで、呼吸器外科以外の2つの科は拠点病院に通院すること、呼吸器外科の分は当科で診ることにして経過を観察することにした。しかし9月、10月、11月と徐々に弱っていくAさん。入院を勧めるが絶対嫌だと。

12月末、当ホスピス外来予約日の前日、突然の腰痛が出現し動けなくなり拠点病院に救急搬送。救急部が診てくれ、画像診断上がんの転移はなく、骨粗鬆症による単純な圧迫骨折だと診断され、鎮痛剤のアセトアミノフェンを処方され帰宅させられた。

翌日、家人から痛み止めを飲んでも効かない、動けない、体験入院をさせてほしい、と電話があった。たまたまベッドが空いていたので、介護タクシーで外来まで連れてきてもらい、入院してもらった。

がんは1ヶ月でひどく進行しており胸水まで出現している、そのため呼吸苦は悪化している、心肥大も悪化しており、そのため足はパンパンに浮腫んでいる、何より悪液質による倦怠感でご飯も食べられておらず、痩せも進んでいる。それでも「はよ楽にしてくれ。楽になったら家に帰るから。」と宣うた。家人には余命は週単位、1月の半ばにはお別れになるだろうと説明した。

ステロイドとモルヒネの内服治療を開始したところ、腰痛、呼吸苦は改善、それで心負荷も改善されたのか、尿も出るようになり浮腫みもましになった。何より当ホスピスナースたちの手厚いケアを受け、気持ちが楽になっていた。

「もっと早うに入院しておけば良かった。帰る気がのうなってしもうた。あとはよろしく頼むわな。」

元旦あけて2日の朝、突然、呼吸と意識状態が悪化したと病棟から連絡があり、診察しに行った。診察上は癌性リンパ管症。ステロイドパルス療法をし、モルヒネを持続皮下注に変えたところ、1時間で呼吸苦は改善した。しかし意識状態は改善せず、徐々に麻痺も出現してきており、脳転移ないしは脳梗塞の可能性が示唆された。

残された時間は僅かであろうと家人に説明、その後は家人が代わる代わる付き添われた。そして3日夜に旅立たれた。
今朝、いつものようにお別れ会を開き、チャプレンにお祈りをしてもらい、自宅へと帰られた。

お別れ会で家人から、
一週間の入院生活でしたが、8月に再発を言われてから消えていた笑顔をまた見ることができ、私達も救われました、ありがとうございました。
とお礼の言葉を頂いた。

これがホスピスマインドのなせる業である。





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Last updated  2024.01.04 23:09:26
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