帰郷 ~ 故里の海の傍で
大晦日に帰国した。ほんの短い間ではあったけれども、親父となじみの温泉宿にも出向き、眼下に波の打ち寄せるのを見つつ、潮騒を聞きながら、酒を酌み交わし、また熱い湯の湧き出る露天風呂から遠くに漁り火を眺めて、正月を過ごしたのだ。それから海辺に行った。雨の続いたこの正月、辺りはどこも雲が低くたれ込めていて、この浜からは遠くに船が出て行くのが望まれた。この小さな湾には、かつて旧帝国海軍の機動部隊が停泊したこともあるのだが、今はただひたすらもの静かな日本海の風景が見える。現在の幹線道路ではなく、江戸期から明治の頃まではそれが主要な道であった旧道を辿れば、そのすぐ先で海に注ぐ川の傍を通ることになる。 そこには何時も様々な鳥が居着いているのだった。親父の仕事の関係で育ったのは県都であったが、私の生まれたこの父祖の地は未だ自然の中にある。森の片隅にある我が家に向かう坂道、それを親父が辿る。木々は冬枯れを抱いて、しかし雨に濡れそぼったので、最早しわがれ声で騒いではいなかったのだ。今は亡きお袋が、正月用に手間ひまかけて作った黒豆は、絶品であったことを思い出した。この次に年が明ければ、 父親は米寿を迎える。 もしお気に入りの写真があったときは、クリックしてくださいませ。 にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村