基盤
僕はきっと、気休めが欲しかっただけだと想う。僕が僕で在る為の、他者に対する何らかの気休めが。赦して欲しかった。名称としての過去ではなく、現在としての名称を。僕は僕という自己を、彼女の中に残したかったんだ。そして彼女の中の無意識によって、僕の記憶を消されたかった。考えてみれば、僕の他者との馴れ合いには全部意味があったね。其れを彼女に伝えるには、まだ、僕の意識は覚束ない様子だけれど。夢があるなら其処に僕はいる、空があるなら彼女だって其処にいるよ。だから、だから、だから。街角に潜んだ僕を探したりはしないでね、御願いだよ。碧。だけどもう、良いんだ。君はもう少し色んなものを見過ごしていいと想うんだ。君は君の中の、大切なものをもう一度観るべきなんだよ。なぁ、解るかい。だから僕のことも、彼のことも、今は何もかも忘れてみよう。そうして手放すことで、君はもう一度、君を得ることが出来る筈だから。