この苦味は、まるで。
書きたいことだけ書けば良いんだ。考える暇なんて大して必要じゃない。悩む必要なんて、もっとない。そんな時間があるのなら、そんな苦痛を味わうことで、他の快楽を捨てる位なら、御前、いっそのことその苦痛と結婚してみるか。ゲーテだか何処だかの孤高の哲学者を気取って、君は僕を諭す振りして突き放す。「もう良いからその惚けた口を開くなよ」そうして君はいつものように、口端を上げたまま、僕に世界を翳すんだ。ああ、にがい。君はサファイアの様に聡明で、ソフィアの高潔さを持ったまま、スタンスの欠けた僕を更に欠けさせる。歴史の摂理に敵った理知が、いつだって誇りある理知であるように、君はいつだって高潔だ。そうしてその高潔さを意図しないまま、僕を滑稽だと嘲笑っては泣いていた。君の言葉は、僕にとってはいつだって当然のように苦いまま。けれど舌先に広がった苦味を逃がさないように、僕は唾を飲み込むことさえ忘れてしまう。意図しない痛みや苦しみを、僕は君に伝えることが出来ないまま、この苦痛を飲み込むんだ。文字を刻んで、歌を淀ませて、似合いの静寂を宿してる。宿した静寂に、無理矢理言葉を埋め込んでいる。それでも。君にさよならもありがとうも必要ないと解っていた。それだけは、君に伸ばしたこの手が、知っていた。苦痛を苦痛として飲み込んだら、君の夢を観よう。夢を観ては、覚める情緒におぼれてく。ああ、非道く苦いね。この苦味は、この痛みは。嗚呼、僕は、僕らは、この場所で。碧。