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カテゴリ:NK関係
最初は俺の方が追っていた筈なのに、気がつくと、相手が俺を追っている。そして俺はその相手に安心しているうちに、逃げられてしまうのだ。
奇妙なくらいに彼らは同じ行動を取った。そして妹はそのたびに甲斐性なしと俺を責める。 まあ当然だ。そして俺はまた懲りずに、「声」を捜してしまう。無意識のうちに。前の相手への未練も忘れて。ひどい奴だ。 張り巡らせたアンテナに引っかかる声を捜してしまうのだ。 * 「七時だよーっ!RINGERだーっ」 開演時間が小津の声で告げられた。 馬鹿でかい奴の声はマイクを通すと、空気がびりびり震えた。小津はこういう時のトークが上手い。バンドの中でも「面白い」部分をいつの間にか担当しているようなふしがある。 まあドラマーにしては奴はあまりがっちりとした体型ではなく、しかもジャニーズ顔だ。おまけに、ただのギター馬鹿の俺なんかより、ずっと「普通」のファッションセンスを持っている。それに明るい性格と相まって、「恰好いい」とはそう言われないにも関わらず、彼は人気があった。 「ごめんねー、今日はKちゃん、急に熱出して倒れちゃって」 えー、と女の子達の声が飛ぶ。 「そんな訳で、メンバーへの大質問大会としたいと思いまーす」 黄色い声が響いた。どうやらそれはそれで楽しそうである。まあ仕方がないだろう。ここまで来てしまったら、楽しまないと損、なのだ。 結局出演順番を逆にした。うちのバンドが先で、向こうのバンドが後になった。 まともに演っていられたなら、俺達の方が後なのだ。キャリアとか、人気とか色々な面を加味すると。だがトークライヴとなってしまうと、そういう訳にはいかない。客に対してのお詫びという意味もある。 「はいそこの子!」 小津は司会者か学校の先生か、という調子で、次々と会場のウチのファンを指していく。ファンの子達は、その場で声を張り上げて、くだらない質問を飛ばしてくる。 さすがに不機嫌な顔はできない。根性で俺は百万ドルの笑顔を振りまいていた。 そしてすぐに次のライヴが始まった。俺達は結局殆どステージの幕の前でそんな馬鹿話をしていたので、既に向こうのバンドの楽器はセッティングされていた。 S・Sはよく言う「ヴィジュアル系」のバンド雑誌に取材されたこともあるだけあって、何はともあれ整った顔のメンバーが揃っていた。最もいわゆる「それ」のように化粧ばりばりという訳ではない。「すっぴんではない」薄化粧程度だ。 上手から見る俺は、さすがに眼鏡をかけていた。 誰のナンバーだか忘れたが、頭の配線が何処か切れたような女性ヴォーカルに、こんなにでかくていいのか!と言いたくなるようなリズム隊、それにノイズだらけのギターの音がかぶさるSEがかかった瞬間、暗転。フロアが湧いた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.07.16 09:11:26
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