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カテゴリ:本日のスイーツ!
確かにまだ眩暈の様なものは続いていたのだ。眩暈はたぶん、ロブのせいでもあるのかもしれなかった。
彼自身がまだ、何処か混乱した感情を持っているのかもしれない、とオレはその時思ったのだ。 「ほらよ、紅茶だな」 「うん」 オレはようやく身体を起こした。目の前のピザを見たら、それなりに食欲も戻ってくる。それにアイスクリームはオレの好きなキャラメルナッツ入りだ。 「…学生の頃の、友達だ」 「学生の頃の?」 座りながら、不意に奴は切り出した。 「遠い昔、じゃない?」 「遠い昔さ」 普段、歳のことを言われると怒るくせに。 「十年以上前のことだ。遠い昔だろうさ」 「ふうん。じゃああのひとも、絵を?」 「いや、あの女は…」 シーフードがてんこ盛りのピザに口をつけながら、奴は言葉を捜す。 「…お前、最近新聞読んでいるから、星間外交委員長の名くらいは知ってるよな?」 「…えーと、確か、アルヴィン・ラッセルとか…」 「あいつはそいつの娘でな、マリ・ブランシュって言うんだ」 「え」 星間外交委員長の…ってことは。 「あの、もしかして、ラッセル財閥の」 「そうだ。確か次女だ、と言っていたな。今は結婚して、パースフル夫人だ」 「ん?」 また何処かで聞いた名前だった。 「パースフルって…まさか」 「おお、だんだん覚えてきたじゃないか。このソグレヤの最高評議会議長だよ」 「ええーっ、でも議長ってもう五十越えたじーさんじゃ」 「…まあ確かにお前からみたら下手するとじーさんだろなあ…」 呆れた様に奴はうなづいた。 「だけどな、名家の結婚ってのは、そういうことも多いんだぜ。議長はずっと結婚せずに、四十越えるまで政務に取り組んできたんだが、学校を卒業したあいつが社交界にデビューした時に、見初めたんだと。…まあどっちかというと、親父のラッセルの歳に近い訳だが」 「結婚で、つながりが深くなる」 「そう、お前もだんだん賢くなってきたな」 ははは、とロブはピザに食いつきながら笑った。だけど目は笑っていない。 「…綺麗なひとだよね、マリ・ブランシュさん」 それはオレの彼女に対する素直な感想でもあった。 「…まあそれだけじゃあ、なかったがな」 「そうなのか?」 「ああ。あれは棘を隠した薔薇の様なものさ」 「気障…」 思わずつぶやいたら、ぱん、と軽く頭をはたかれた。ようやく少しいつもの調子が戻ってきたらしい。 「あいつは絵の専攻じゃない。音楽だったんだ。芸術系の大学で俺は絵を描いていて、あいつはピアノを弾いていた。だがまあ、ピアノと言っても、そっちの方にはそんなに興味は無かったらしいな」 「…変なの。せっかく学校に行ったのに?」 「まあ『名家』だからなあ。女には下手に頭使わせるよりも、音楽をやらせて綺麗な花のままでいさせよう、と思ったんじゃねえかな」 「そこで知り合ったの?」 「まあな」 「でも」 「ま、あの女のことはどうでもいいさ。この先会うことなんてまずないだろうよ。それよりお前全然食ってねえじゃないか。ピザが駄目ならアイスだけでも食え」 「食ってるよ」 「そおかぁ?」 オレは苦笑いすると、少し端が溶けかかったアイスにスプーンを入れた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.07.18 06:22:04
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