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2005.07.18
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カテゴリ:本日のスイーツ!
 確かにまだ眩暈の様なものは続いていたのだ。眩暈はたぶん、ロブのせいでもあるのかもしれなかった。
 彼自身がまだ、何処か混乱した感情を持っているのかもしれない、とオレはその時思ったのだ。
「ほらよ、紅茶だな」
「うん」
 オレはようやく身体を起こした。目の前のピザを見たら、それなりに食欲も戻ってくる。それにアイスクリームはオレの好きなキャラメルナッツ入りだ。
「…学生の頃の、友達だ」
「学生の頃の?」
 座りながら、不意に奴は切り出した。
「遠い昔、じゃない?」
「遠い昔さ」
 普段、歳のことを言われると怒るくせに。
「十年以上前のことだ。遠い昔だろうさ」
「ふうん。じゃああのひとも、絵を?」
「いや、あの女は…」
 シーフードがてんこ盛りのピザに口をつけながら、奴は言葉を捜す。
「…お前、最近新聞読んでいるから、星間外交委員長の名くらいは知ってるよな?」
「…えーと、確か、アルヴィン・ラッセルとか…」
「あいつはそいつの娘でな、マリ・ブランシュって言うんだ」
「え」
 星間外交委員長の…ってことは。
「あの、もしかして、ラッセル財閥の」
「そうだ。確か次女だ、と言っていたな。今は結婚して、パースフル夫人だ」
「ん?」
 また何処かで聞いた名前だった。
「パースフルって…まさか」
「おお、だんだん覚えてきたじゃないか。このソグレヤの最高評議会議長だよ」
「ええーっ、でも議長ってもう五十越えたじーさんじゃ」
「…まあ確かにお前からみたら下手するとじーさんだろなあ…」
 呆れた様に奴はうなづいた。
「だけどな、名家の結婚ってのは、そういうことも多いんだぜ。議長はずっと結婚せずに、四十越えるまで政務に取り組んできたんだが、学校を卒業したあいつが社交界にデビューした時に、見初めたんだと。…まあどっちかというと、親父のラッセルの歳に近い訳だが」
「結婚で、つながりが深くなる」
「そう、お前もだんだん賢くなってきたな」
 ははは、とロブはピザに食いつきながら笑った。だけど目は笑っていない。
「…綺麗なひとだよね、マリ・ブランシュさん」
 それはオレの彼女に対する素直な感想でもあった。
「…まあそれだけじゃあ、なかったがな」
「そうなのか?」
「ああ。あれは棘を隠した薔薇の様なものさ」
「気障…」
 思わずつぶやいたら、ぱん、と軽く頭をはたかれた。ようやく少しいつもの調子が戻ってきたらしい。
「あいつは絵の専攻じゃない。音楽だったんだ。芸術系の大学で俺は絵を描いていて、あいつはピアノを弾いていた。だがまあ、ピアノと言っても、そっちの方にはそんなに興味は無かったらしいな」
「…変なの。せっかく学校に行ったのに?」
「まあ『名家』だからなあ。女には下手に頭使わせるよりも、音楽をやらせて綺麗な花のままでいさせよう、と思ったんじゃねえかな」
「そこで知り合ったの?」
「まあな」
「でも」
「ま、あの女のことはどうでもいいさ。この先会うことなんてまずないだろうよ。それよりお前全然食ってねえじゃないか。ピザが駄目ならアイスだけでも食え」
「食ってるよ」
「そおかぁ?」
 オレは苦笑いすると、少し端が溶けかかったアイスにスプーンを入れた。





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最終更新日  2005.07.18 06:22:04
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