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カテゴリ:NK関係
「カナイのメロディは面白いんだけどな。予想できないんだもん展開が。俺もっと聞きたいんだけど、この寡作野郎」
マキノはふう、とため息をついた。 「仕方ねーじゃん。そうぽろぽろ湧き出る訳じゃあないんだからさ。お前こそ俺の手伝いはしてくれるけど、全然自分のアイデア持ってこねーじゃないの」 「俺はそういうのが浮かばない人、なの!仕方ないでしょ」 「まあまあまあ」 とリーダー殿は食いつきそうな勢いの高校生をなだめる。 何となくこいつが人をなだめている図というのはおかしかった。だいたいこいつは人を振り回すことはあっても、人に振り回されることはないのだ。 ところが、この高校生達が入ってからというもの、事態は逆転していた。しかもそれが結構楽しそうだというあたりが、判らないものだ。 ケンショーの悪友は以前、奴には実は振り回すタイプが合ってるんじゃないか、と言っていたが、意外と的を射ていたらしい。 「ま、何にしても、いい曲書いて、いい音に…納得のいく音作って、売ってもらおうな」 とリーダー殿は締めた。 本当に、俺にそれを作る能力があったらいいのに、と思う。だけど。 駅前まで来ると、ケンショーはバイトがあるから、と地下鉄への階段を降りていった。カナイは本屋に寄ってから帰る、と駅前の繁華街へと紛れていった。そして俺とマキノが残された。その日俺はバイトは休みだったので、すぐにこれという用事はなかった。 どうしようかな、とぼんやりと考えていると、残されたもう一人が俺以上にぼんやりとしてロータリーのコンクリートブロックの上に座り込んでいた。 「お前はどうすんの?マキノ」 え、と彼は弾かれたように俺の方を向いた。ひどく驚いたようで、大きな目を更に丸くしていた。俺は何となく、胸が飛び上がる感じを覚えた。 「…え?今何か言った?」 「お前はどっかこれから行くとこあるの、って聞いたの」 「別に…取りあえず帰ってもいいし、どーしようかな、と」 そしてふらり、と首を回す。伸びかけて、さらさらした髪が揺れた。その仕草にふと、先週のことが思い出される。 「そう言えばさ、お前、こないだの週末、**駅の前にいなかった?」 「…あれ、オズさん居たの?夜なのに」 否定はしていない。 「うん、あの町に友達の部屋があるから…見間違いかと思ったけれど」 「居たことは居たよ。うん」 ふうん、と俺はうなづいた。 「でも友達かあ。いいな、そういう時間に居てくれる友達が居るっての」 「…あれ?お前あの時連れ居たんじゃないの?」 「連れは居たけど、うん…」 言葉をにごす。さほど言いたい話題ではないらしい。 「…ああ、そういえば最近ACID-JAMにも行ってないから、行ってみよっかな」 そして奴はオズさんもどう?と訊ねた。特に用事はない。いいよ、と俺は答えた。 * 「ACID-JAM」は、その日は結構な入りだった。 ここは、以前よく出ていたライヴハウスだ。去年までは、そこが俺達の根城だった。 ここしばらく、動員が伸びたので、スタンディング200から300人程度しか入らないライヴハウスでは危険になってしまい、もう少し人の入る現在の行きつけの所へと移ったのだ。 出なくなったとは言え、別にそこのスタッフといさかいを起こした訳ではないので、現在でも俺は行けば顔パスだった。 そして顔パスの奴はもう一人居たらしい。 「あらマキちゃん、久しぶり…あれ、オズ君も一緒?…あ、じゃあ、RINGERとくっついたって本当だったんだあ」 「くっついたって…ナナさん」 俺は少しばかり妙な方向へ頭が行っていたらしい。すると彼女は面白そうに、追い打ちをかける。 「だって本当でしょ?」 「うん、そうだよね」 マキノまでがそう答える。はい、と彼女はマキノにタンクのものではないオレンジジュースを渡すと、俺に何呑むか、と訊いた。ウーロン茶、と俺は答えた。 「あら、呑まないのぉ?」 「そういう日だってあるの」 「生理?」 マキノがするっとそんなことを言う。俺は思わずカウンターにつっぷせた。けらけら、とナナさんは笑う。 「ところでねマキちゃん、今日はここて何の日だったか知ってる?」 「ん?何だっけ」 「BELL-FIRSTがね、メジャー一周年前夜祭なの。良かったらマキちゃんも出たら?」 「俺があ?だめだめ」 「出るって?」 思わず俺は、手を振る奴とナナさんに訊ねていた。 「やだ、知らないで二人で来たの?だから、お友達バンド集めてセッション大会なの。もちろんベルファのステージもあるけどね、それだけじゃなくて」 と、半ば以上埋まっていたフロアから急に歓声が上がった。 はれ?と俺は目をこらした。舞台の上手には、何やら白い紙が見えた。 ボールドの色の幕に丸くピンスポットが当たっている。そしてそこには、羽織袴を着た人物が居た。 「…」 思わず俺はマキノの回転椅子をぐるりと回してしまった。奴はバランスを崩しそうになり、途端に抗議の声が上がる。 「何すんの!」 「何じゃありゃ?」 「…あれ?」 奴は目を大きく見開き、ステージ上の人物を見る。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.08.12 22:03:06
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