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2005.08.24
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 カーマイン市。
 惑星クリムゾンレーキの首府である。
 だが「地方」の惑星の首府というものは、「中央」の惑星の郊外都市ほどの規模がないことも多い。
 この場合もその例に漏れない。
 生活水準は辺境の開発惑星に比べればおおむね高いが、中央の都市部に比べれば格段に低い。
 軍備も比例するのが普通だ。
「…のはずだけどねえ」
 彼女はつぶやく。
 通りを歩く人々の群。先程から軍服ばかりが目につく。もっとも、そう言う彼女自身も同じ格好の訳だが。
 肩と胸の黒星、軍警の印だけ外し、彼女は足を進めた。
 やがてふと足を止める。顔を上げる。目を細める。
 眉を寄せる。
 石造りの建物の壁のあちこち、外宣ポスターが幾枚も重ね貼られている。
 走り書きのような字体。
 中央の横暴を許すな! 自治を守れ!
 白地に赤と青と黒。
 …今必要とされているのは君だ。君一人の存在は小さいが、君は一人ではない…
 屋外モニターからは毒々しげなアジテーションフィルム。繰り返し繰り返し流されているコトバと音。
「飽きねぇなあ…」
 彼女はつぶやいた。
「十二年前と同じじゃねぇの…ここの連中って、ホント、学習能力がねぇなぁ…」
 立ち止まり、ポスターを見上げる。
「馬っ鹿みてぇ」
「―――今、何と言った?」
 不意に背後から声がした。
「んー?」
 視線はずっと感じていた。
 そろそろだな、とも思っていた。
 先程から遠巻きに自分が見られているのを彼女は感じていた。
 たとえ黒星を外したしても、その服の作りは佐官であることを隠せない。
 …こんな佐官は居ただろうか。
 視線がそう語っていた。いい傾向だった。
「何と言った、と聞いている!」
 そうだねえ、と彼女は首を傾げ、ポスターの一辺に視線をやる。
 と。
 一気に。
「貴様…!」
 ポスターは一気に引き裂かれた。
 その途端、足音がばらばら、と近付いてきた。
 周囲にどう潜んでいたのだろう、兵士が飛び出してきた。
 彼女はゆっくりと振り向いた。
 傾いでいた帽子を直す。ちらり、と周囲を見渡す。
 嫌な空気だねえ。内心つぶやく。
 にやり、と笑う。
 三十人は居る。よくもまあ、と苦笑し、彼女はポケットに手を突っ込む。
「…! 動くな」
「何怖がってんの」
 ぽん、とシガレットとライターを放り投げる。う、と目の前の一人が口を歪めた。
 ぽん、と一本取り出し、火を点ける。煙を吐く。目の前の一人は顔をしかめる。
 それはそうだろう、と彼女は思う。愛用の煙草は「プリンス・チャーミング」。愛煙家でも口にするのをためらう強い刺激。独特の匂い。
 にやり。
 両の眉を大きく上げ、破れたポスターに向かって煙を吐き出す。
 険悪な空気が密度を増す。
「…退くがいい」
「は、中佐…」
 一人の佐官が進み出た。
「中佐、ねえ」
「如何にも。見たところ貴官もその様だが」
「まーね。一応」
「ポスターを破っていたようだが」
「如何にも」
「何故そんなことをする?」
「下手だからさ」
 彼女はあっさりと言った。
「…上手下手の問題ではなかろう、中佐…」
「じゃあ何よ」
「これは我々の主義主張の書かれたものだ! それを平気で破ることができる、貴官の神経が判らん」
 真面目なことで。彼女は内心つぶやく。
「んー? でもひどいもんはひどいんだよね。色もレイアウトも字体も全くなってない」
「…くっ!」
 「地元軍の中佐」は露骨に顔をしかめる。
「これじゃあせっかくのお題目が泣くってもんじゃねぇ?」
 くくくくく。彼女は笑う。
「…失礼だが、貴官の所属は?」
「聞かれる前に名乗るのが礼儀じゃねえ?」
 そう、ここの地元軍の連中は名乗るんだよ。妙なところで礼儀正しいんだよ。
 口元を緩める。変わっていなければ、だけどね。
 それにしても。彼女は煙を揺らせながらふと思う。
 何処かで見た様な顔。
「…私はコーラル中佐だ。そう言って判らないのなら…」
 黙って軽く目を細め、彼女は煙草を足元に落とす。踏みつぶす。
「貴官を逮捕せねばなるまい」
 コーラル中佐はさっと手を挙げた。
 ざざざ。
 兵士達が動き出す。
「中佐、女性には―――」
 そう言った一人が彼女の蹴り一発で飛ばされた途端、
火がついた。
「派手な格好しやがって!」
「何だよずいぶん弱っちいじゃねぇか、本当に中佐?」
「胸でけぇ!」
 …全く、馬鹿馬鹿しい。よってたかって。

 彼女は意識を手放した。





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最終更新日  2005.08.24 22:29:08
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