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2007.01.30
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カテゴリ:時代?もの2
「…まだ来るの?」
「ええ」
 あて宮はあっさりと言うと、文が山と積まれた箱を妹の方へと押しやった。
 側で孫王の君と兵衛の君がやや不安げに二人を眺めている。
「あなたや一宮の気晴らしになるなら、その方が役に立つと思うの」
「私もそれでずっと楽しんできたから言える立場じゃないけど…」
 今宮は声を低める。
「やっぱりこの扱い方はあんまりじゃあないの?」
「どうして?」
 あて宮は首を傾げる。
「どうしてって…」
「私の所へ送るということはつまりはもう色んな女房に見られるのと同じじゃない」
「女房と私達とは違うじゃない。あの方々にとって」
「今宮は女房と私達が違う人間だと思うの?」
 今宮は詰まった。孫王の君ははっと息を呑んだ。
 姉がそう切り返してくるとはさすがに今宮も思わなかった。
「私は」
 静かな表情であて宮は言う。
「出してくる人達は、さらしものになって笑われることも充分覚悟の上だと思っているわ」
「そういう気持ちでも無視するの?」
「無視するのが私の気持ちよ」
 だから、とあて宮は今宮に文を押しつける。
「皆とても素晴らしい御手跡よ」

「最初はだあれ?」
 一宮も以前ほどには気乗りはしない様だった。それでもまだ好奇心はある。
 うん、とうなづきながら今宮がまず開いたのは、兵部卿宮からのものだった。
「―――あなたのためには大事な魂を塵の様に扱いますが、軽蔑は出来ませんよ。積もれば恋の山となるでしょうから」
「微妙ねえ…」
「微妙だわ…」
 二人は顔を見合わせる。
「ちょっと脅されている様な気になるなあ」
 一宮は軽く眉を寄せる。
「自分に言われているとしたらどう?」
「あ、それいい。そういう風にこれから見ましょ。私達の時の参考になるし」
「参考」
「…と、でも私の場合…」
 一宮は複雑な表情になる。慌てて今宮は彼女の肩を抱く。
「その時は結婚してからそうゆうやり取りをすればいいじゃない!」
「そう?」
「そうよ!」
「今宮も?」
「…っと、私の場合はそもそもお話が無いし!」
「涼さまかも」
「だからその話は!」
 あ、と一宮は袖の下から小さく指をさす。
「今宮、顔赤いわ」
「…次行きましょ、次」
 はいはい、と一宮はうなづいた。周囲の女房達もくすくす、と笑った。
「平中納言さまからね。
 ―――折り返し袖の上に落ちる涙は、潮が満ち引きする海の様になることでしょう」
「何となく固いわ」
 一宮はうーん、と考え込む。
「それじゃあ、四月にあなたの兄宮が送ってきたものね」
 弾正宮の文を取り出す。
「―――煙の立つ様に白い毛が生えて、私の頭は雪のようです。まだ夏に入って間もないので、どうして降ったのか誰も知りません―――他の誰にも判らなくても、せめてあなただけは、ご自分のために白くなった位のことはお認め下さらなくては辛いことです」
 むむ、と今宮はそこまで目を通すと、女房達に問いかけた。
「ねえ、最近弾正宮さまを見かけた?」
 はい、と一人が少し前にいざりよる。
「これって、もしかして…」
「はい、あの、まことに失礼だとは思うのですが、最近宮さまの御髪に、白いものが幾らかお入りになっている様にお見受け致しました…」
「お兄様ったら… やだ、そんなに思い詰めてらしたの?」
 一宮は口に手を当てる。
「一宮から見て、弾正宮さまはどういう方なの?」
「お兄様は…そうね…」
 一宮は考える。
 弾正宮は現在の帝の三宮である。東宮、入道宮といった后腹の皇子に続く三番目であり、親王としての地位は高い方である。
 仁寿殿女御にとっては最初の皇子であり、それから次々と生まれてくる四、六、八、十の宮や女宮三人のきょうだいの頭でもある。彼女の地位を確固たるものにするための先鋒だったと言ってもいい。
 ただ当人は、どちらかというとふわふわとした気性に思われている節があった。
 女性にしても、ちょっとした浮き名はあちこちに流すが、それが実を結んだという話は何処にも聞かない。
 だが実はその女性達も、ただ単に話をしているだけではないか、という噂もある。女性から迫られて拒めないのだ、とも言われている。だがあくまで噂は噂に過ぎない。 
「あて宮には本気なのかしら」
「本気なのだと思いますよ。他の方々の歌より真っ直ぐで、私だったら宮さまの方に惹かれます」
 ねえ、と女房達は顔を見合わせる。   





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最終更新日  2007.01.30 21:56:50
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