果て遠き丘/三浦綾子
「氷点」でおなじみの三浦綾子が、やはり地元北海道を舞台に、家族の愛のかたち、人間の信頼、抜きがたいエゴイズムを痛烈に描く長編小説。 果て遠き丘/三浦綾子長い間、別々に暮らした、美しく正反対の性格をもつ姉妹、恵理子と香也子。姉の恵理子はしとやかで思いやりがあり、優しい大人の女性。妹の香也子は自己中心的ですべてが自分の思い通りにならないと気が済まず、いわゆる典型的なお嬢様。二人がまだ少女だった頃、父親の浮気によって両親が離婚。恵理子は母親に、香也子はその女性と再婚した父親に引取られ、それぞれ顔を合わせることもなく暮らしてきたが、両家に出入りしている従兄から、美しく成人した恵理子の話を聞かされた香也子。その嫉妬心から、ある日突然、再会を目論見、果たすことになる。この再会をきっかけになんとか平穏に暮らしてきた両家の人物達が有無もなくに関わることになり、軋みをたてならがら交錯していく。恵理子の美しさに触発された、香也子のエゴイズムが、遂に恵理子を含めたすべての人物へと、執拗なまでに暴走する。自分が何よりも一番であることを誇示しないではいられない。香也子にとっては他人の愛を壊し、人の幸福を踏みにじることは楽しいゲームですらあり、愉悦でさえある。香也子は裕福な家庭で甘やかされて育ったためにこれ程までに恐ろしい性格になってしまったのか、両親の離婚が彼女の心に暗い影を落としたのか、それとも天性の性格なのだろうか。読み進んで行くと、香也子のエゴイズムを追体験しているようで空恐ろしい。人の心の中にはこれほどまでに、エゴイズムが形成されているものだろうか。ひょっとしたら、自分が気付かないだけで、自分自身にもこんな一面があり、ある一方からは香也子のような人として、周りから映ることもあるのではないだろうか。と疑心暗鬼になってしまう。自分の心の闇を凝視させてくれる作品。