くもり時々映画

2018/12/01(土)20:23

フランソワ・オゾンの才気

極私的映画史(87)

 フランソワ・オゾンが一躍注目を浴びたのは、2001年に発表された「まぼろし」だろう。主演のシャーロット・ランプリングのその後のイメージを決定づけるような傑作だった。ランプリングの演技の素晴らしさと同時に、その魅力を引き出したオゾンの力量も高く評価された。  そんなオゾンが翌2002年に発表したのが「8人の女たち」だ。フランスを代表する8人の女優が歌って踊るサスペンス。1950年代の映画を現代に甦らせようという野心的かつゴージャスな作品だ。カトリーヌ・ドヌーヴとファニー・アルダンの共演だけでも胸は躍るが、さらにイザベル・ユペールとエマニュエル・ベアール、おまけにダニエル・ダリューまで出演するのだから「奇跡」という言葉が出てきても、ちっともおかしくない。  有名女優の交通整理だけでも大変なはずの作品だが、オゾンの才気は大女優を前にしても臆することはない。とっかえひっかえ、彼女たちの魅力をスクリーンいっぱいに映し出してみせる。確かに「まぼろし」では正統派の演出力を見せたものの、それまでの彼の作品を見れば、非常に個人的な嗜好を前面に押し出す監督であることは一目瞭然だ。そんな彼が見事なまでに「スター映画」を作ってみせたのだ。  とはいえ、当然、単純な「スター映画」であるはずはなく、1950年代の映画への偏愛が満ち満ちている。オゾンにとっても、本作が「奇跡」であったことは、その後のフィルモグラフィをたどってみればわかる。ここまでゴージャスで豊穣感あふれる作品は、残念ながらモノにできていない(キャスティングの豪華さから言っても、もう不可能だろう)。  一癖も二癖もある作風がオゾンの個性だとすると、本作はその個性を映画の底に隠して撮りあげた「スター映画」といえるかもしれない。8人に割り当てられたシャンソンも絶妙で、イェイェあり、ディスコありと女優たちの個性にピタリと寄り添っている。そして、この映画の締めくくりにふさわしく、ダニエル・ダリューが歌う「幸せな愛はない」の素晴らしいこと! 彼女のキャリアの重みが本作に集結した女優たちの要となり、見事な大団円を実現させている。

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