お父さんから子供たちへ

お父さんの会社の社長は、安くモノを買うのが大好きだ。まあ普通の人は皆そうだと思うが、一般家庭と会社は違う。

　例えば会社で使う車は、利益が出ているなら新車で買う方が税金の対策にもなるので、基本的に一般乗用車を中古で買う利益を出している会社は少ない。
　ところがお父さんの会社の社長は車好きでもあるので、週末など暇なときにネットで中古車情報などをよく見ているらしい。

　そして社長の中でお買い得だと思う中古車を見つけると、ほしくてたまらなくなるようだ。お父さんが帰国して出社したその日に、中古のすごく状態のよい軽トラックを見つけたから購入したと言われた。安くていいものを手に入れたと本人は喜んでいたが、おとうさんはとても喜ぶ気持ちにはなれない。

　なぜなら安く買ったことでいろいろ出てくる不具合のしりぬぐいをしなければならないのだ。先日も社長がネット通販で天井につけるＬＥＤの照明を購入した。そしてお父さんが呼ばれ、「取り付けておいて」と指示を受けてしまった。そしてそのまま社長は外出してしまった。

　さらに外出前に、「今日は大安だから今日中に」という無茶な納期まで押しつけられた。現在ついている照明を2個外して、社長が購入した2個の新しいものに取り換えるのだが、どう見ても片方は簡単に取り外せない照明がついている。

　外そうとして見ると、案の定天井の上の方からボルトで固定されていて、簡単には交換ができない仕組みだった。お父さんは即座に電気屋を呼ぶように同僚にお願いした。現状の照明を外すだけなら社内でできるが、新しい照明を取り付けるには専用の部品が必要だった。そんなものはその日中に手に入らないというのが明白だったからだ。

　やってきてくれた電気屋さんは明らかに不機嫌だった。なぜならネットの安い照明を取り付けてほしいという依頼は、あなたのところで扱う照明は高くて買うつもりがないが、取り付け作業だけはやってくれと言っているようなものだからだ。
　これまでもこの電気屋さんには同じようなことを社長がやらかしていて、あまり関係が良くない。まあ仕事なのでお父さんは電気屋さんに気をつかいつつ、作業をしてもらった。

　社長が外出している間に作業を終えることができたので、余計なもめごとは起きなかった。もし作業中に社長が戻ってきたら間違いなく、電気屋さんにまた失礼なことを言ったはずだ。電気屋さんも個人経営とはいえ社長である。それなりにプライドもあるし我が強い人だ。

　最後に社長に電気屋さんを呼んだことを報告し、社長は不本意ながらもお父さんの「今日中に」ということだったので無理をしたという言葉で何とか納得してくれた。
　
　お父さんが確認すると、この照明が会社に届いたのはずいぶん前だったようだ。おそらく社長は自分で交換しようとして、失敗したのだと思う。結局逃げるようにお父さんに押し付けたのだ。結局今回の照明取り付けで電気屋さん2名とお父さんを含めて社員3名が約1時間かかって照明を取り付けた。

　社長の気まぐれと安物買いでいつもこのような騒ぎを繰り返している。もう少し何とかならないかと思うのだが、社長に意見をできる人はいない。今後もこのようなことが続くのだろう。