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カテゴリ:いろいろなお医者さん
今、女性の研修医が総合病院から精神科研修に来ている。
当たり前だが、私と違ってピチピチギャルだ。 そんな若い女性医師に、訊いてみた。 「ねーねー、医者になってから、看護師からの扱いが、男性医師とちがーう、って思ったことって、ない?」 彼女は怪訝そうな顔をして、「特に、無いですけどぉ」と答えた。 以前に書いた、セクハラの話などをすると、びっくりした様子だったが、「どこにもある話。自分には無縁と思ってはいけないよ」と注意しておいた。 時代は変わったなあ。 私がローテート研修を始めた頃は、師長に「点滴の準備くらい自分でやりなさいよ」とボトルを投げつけられたことがある。 点滴の準備、と言っても知らない、慣れないと意外に難しい。 手順を誤ると、不潔になってしまうばかりでなく、ルート(点滴ボトルから血管に刺す針までの間)にエアが入ってしまい、使い物にならなくなる。 念のため説明しておくが、ルートの壁にくっついているような小さな気泡は血管に入っても大丈夫。 それに多少の空気は途中に「タコ管」というのがあるから、そのタコの頭の部分を上にしておけば、そこでトラップしてくれる。 静脈から入って、肺の毛細血管に引っかかる程度の泡は問題にならないが、ある程度以上大きな血管を詰まらせるほどの空気だと、肺塞栓となるから生命に関わるのである。 ベースとなる維持輸液に、必要な薬剤を清潔に加え、ルートの栓をきちんと閉めてからボトルに刺す。 それから、点滴のポタポタ落ちて見える部分を、逆向きに持って数回プッシュすると、エアが入ることなく、液が流れてくる。 液が1/3~1/2くらい溜まったところで、ルートの栓をゆっくりと開け、タコ菅の頭を下にして流すと、エアはまず1つたりとも入ることなく準備が出来る。 だが、説明も受けず、全く知らないでやらされたのだからたまらない。 見事にルートをエアだらけにして、薬剤を捨てる羽目になったのだ。 当然師長にはこってり搾られた。 研修医室に戻って尋ねると、男性医師たちは誰一人として、そんなことをやらされたことがない、と言う。 当然のように点滴というのは全て詰められ、ルートが繋がれ、あとは針を刺すだけの状態で、彼らの前に現れるという。 医師が手術時などに点滴の交換をすることがあるが、これは既にルートに液体が充満しているものを刺し替えるのだから、ただアルコールで拭いて刺し替えるだけ。 これがやれても、点滴の準備はできない。 今思えば、このときの師長には感謝している。 少し年次が上がって分かったのだが、私の周りの医者は圧倒的に看護師任せで点滴の準備を自分でしたことがない人がほとんどなのだ(スマートにやれる人を見たことがない)。 別れた元夫もできなかった。 今、同じ職場に勤める医師も、知らないというので教えてあげたことがある。 今の職場で当直をしているとき、看護師に点滴指示を出したところ、「点滴の準備をしたことが無くて、出来ません」と言われたことがあったが、その時も自分でサクサクとやれた。 準備の仕方をあの時怒られながら覚えた御蔭で、私は家に持ち帰って一人でも点滴がやれるのだ。 いよいよ手がなければ、一人でも持続点滴だって刺せる。 これも、MRSAの出ている患者さんの部屋に一人で入室させられ、点滴ボトルと輸液セットを投げ込まれたことがあるからだ。 止めるためのテープを2~3枚用意して、清潔トレーの縁に貼っておく。 延長カテーテルをルートの先につけ、液が完全に先端まで送り、清潔トレーの中に入れておく。 駆血帯を巻いて、補助者がいるときと同じように留置針を刺したら逆流を確認し、滅菌ガーゼを留置針側の接続部下に置いておく(血液が多少こぼれても、吸い取ってくれる。シーツに血液を付けると後で大変看護師さんに怒られる)。 ぎりぎりまで逆流させたらカテーテルの先端部分(皮膚の上から触れば分かる)を左手指でしっかり押さえてから、右手で駆血帯を外す。 トレーの中に置いてあった延長カテーテルを留置針の根元に合わせてそっと左手指をゆるめ、急いでキャップをねじ込む。 後はテープで固定するだけだが、先ほど挙げたタコ菅の「タコ頭」は、必ず上になるようにして貼り付けなくては意味が無い。 自分が帝王切開で入院中、点滴の準備がなっていなくてルートがエアだらけのを刺されたり、床に落とした針をアルコールで拭いて刺されたり、ルートをテープで固定するときにタコ菅が横や下を向いてたり、知っていると「何だよ!」と怒りたくなることが多々あった。 女性医師が増えて当たり前になって、看護師から「医者は男性であるべき。同性のくせに生意気」という目で見られる時代は終わったみたいだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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