“The Constant Gardener” ナイロビの蜂(2005) 「ねえ、知ってる? 対人用刺突ナイフを流行らせたのはナイフ業界なんだよ」10
The Constant Gardenerhttp://jp.youtube.com/watch?v=QN16reP-3_I “The Constant Gardener” (邦題「ナイロビの蜂」)は、ナイロビ在住の英国外交官が、殺害された妻の死の真相を追う映画です。これまで述べてきた秋葉原での連続通り魔事件以後のナイフ業界の対応も、釈然としない部分がたくさんあります。なぜ、あれだけ人の生き死にについて、ナイフによる人間の殺傷術について、あることないことを流暢にふれ回っていたナイフ業者やライターが、なんの声明、釈明もなく方向転回して平気な顔をしているのでしょうか。なぜ、北村岐阜県関刃物産業連合会長は事件直後に、綿密な調査や議論などをすることなく突如ダガー規制を要請したのでしょうか。なぜ、ナイフメーカーや小売り業者はダガー規制に対して静まり返っていたのでしょうか。なぜ、ナイフマニア、コレクターたちは所有しているダガーの行方ばかり話題にして、規制に到る以前の、ナイフ業界の問題点については触れようとしないのでしょうか。要するに、これらの沈黙は、ナイフ業界とその周辺の人間たちの、自己保身のための黙秘であって、ダガーに注目を集めておいて、その隙に臭いものの蓋を一斉に閉じただけに過ぎず、潜在的な問題は何ひとつ解決してはいないということです。実際、対人殺傷用として宣伝され、販売されたナイフはダガーだけではありません。北村岐阜県関刃物産業連合会長は、「国内の犯罪で凶器として使われるのは ほとんどが国外のアジア諸国で生産された安価な包丁やフルーツナイフである。」と述べていますが(※1)、安価な包丁やフルーツナイフを対人殺傷用として宣伝した業者があるでしょうか。ナイフの場合は、出版社が、メーカーが、販売店が率先して行った。こういう売り方は、ナイフ業界という狭い世界では通用したかもしれないけれど、日の当たる世界では、特に警察や司法関係者の目が届くところでは、到底披露できない代物だとナイフ関係者は知っているのです。ストライダー(※2)は経歴詐称だ、と多くのミリタリーマニアの人は知っている、どうやら、マイク・エイジャックス(※3)の軍歴も怪しそうだ、あなたもローデシアSAS(※4)に問い合わせてみますか??だけど、それが公の場で責められることは決してない、なぜなら、他にもかつて同じようなことをしていた人がいるからで、もし一人を責めるならば、すべてを是正せねばならず、ナイフ業界だけでなく出版業界まで巻き込む事態になるのは間違いありません。マルティン・ブーバーは『我と汝』の中でこう云っています。「この必然的過程の教えは、将棋のゲームにあたって、 ルールを守ってゆくか、それともゲームをやめるか、 いずれかをあなたに選択させるだけである」(※5)。今年の法改正をきっかけに、少なくない人たちがナイフの趣味をやめるでしょうし、ルールに従って居残る人たちは、窮屈な趣味を続けていくでしょう。しかし、おとなしいマニアの希望とはまったく関係ないところで、災いの種は大地に撒かれていて、ダガー以外の対人用ナイフを “学習”して購入した特殊な思想の人たちは、目的遂行の日が訪れるまで舞台の袖でひそかに息を潜めている。今後、ナイフ事件が起きるたびに、ナイフマニアたちは、「またナイフの規制が強化される!」と戦々恐々とするでしょうが、日本風タクティカル・ナイフが流布された時点でそのことに気づくべきでした。…時すでに遅く、ナイフ事件を防止する有効な手立てはまったくありません。はっきり言ってしまえば、ダガーとその同系ナイフの所持を規制したところで犯罪抑止にはなりません。銃刀法改正の最大の原因は、秋葉原連続通り魔事件そのものではなく、事件後のナイフ業者たちの過剰反応です。そして、ナイフ業界が客を置き去りにして、さっさと逃げ出した。結局これがすべてだと思います。被害者のご遺族の皆さんが「ダガーを規制して欲しい」と嘆願したわけではありません。自分個人は、ナイフ業界の過剰反応と不自然な沈黙(表向きではあるにせよ)こそが、対人殺傷用ナイフを世に広めたことに対する動揺と責任放棄の現れだと考えています。 ※1 平成20年度第1回 岐阜県青少年育成審議会 議事要旨 http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s11123/singi/shingikai20-1.pdf ※2 Mick Strider has some explaining to do. http://www.bladeforums.com/forums/showthread.php?t=453852 http://www.bladeforums.com/forums/showthread.php?t=453852(魚拓) ※3 Mike Ajax ローデシアSASに在籍していたと商業雑誌にて掲載された。 Strider Knives, Game Over! http://www.bladeforums.com/forums/showthread.php?t=518522&page=61 http://www.bladeforums.com/forums/showthread.php?t=518522&page=61 (魚拓) ※4 The 22 Csqn Rhodesian Special Air Service Webpage http://www.csqn.co.za/ ※5 植田重雄訳『我と汝・対話』岩波文庫 P.73