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2020年06月13日
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Montreal Mirabel Airport
Photos by Marc Geuzinge
images.jpeg
 
 
※画像はイメージであり本文とは関係ありません。

 
 
 
 

大藪作品『傭兵たちの挽歌』
U.S. GERBER Folding Sportsman II 用スキャバード製作企画
第四章「敵襲"インカマー"」Vol.04


  『
(※前回からのつづき)
  「ルクセンブルグからパリに戻り、そこからキャナダに飛んだわけだ。まず着いたのは、モン
  トリオールのミラベル空港だ。そこでパスポート・チェックを受けたあと、キャナダ国内便に
  乗りかえトロントに飛んだ。俺だって、それぐらいの文字は読めたさ。
   トロントで降りると、空港のエプロンに車が待っていて、俺と谷崎兄弟はそれに乗せられ、
  口と鼻の部分だけが開いた覆面をかぶせられた。目を見えなくされてから乗りこまされたのは
  小型機だった。機内に入ってからは覆面を脱いでいいという許可が出たが、窓はみんなブライ
  ンドが降りていて、どこをどう飛んだかは分らない。見当もつかん。座席の数は一ダースぐら
  いで、カマラード・3と5のほかに、白人が三人乗っていた。武装してた。
   四時間ぐらい飛んでから、また覆面をつけさせられた。着陸してから、別の飛行機に乗り移
  らされても、覆面を外す許可が出なかった。
   今度の飛行機は軽飛行機らしかった。俺と谷崎兄弟は別々の機に乗せられた。ともかく乱気
  流にあおられたり、エア・ポケットに引っぱりこまれたりして気分が悪くなったぜ。まわりの
  ものが何も見えなかったから、余計に気色悪かった」
  「分るぜ、その気分は」
  「三時間ぐらいたって、小便が漏れそうになった時に、激しいショックと共に着地した。そこ
  で降ろされ、二機の軽飛行機が、給油でもしたのか、しばらくたって飛び去ってから、やっと
  覆面を外された。
   あたりはもう薄暗かった。エア・ストリップというのか、杉林を切り開いたところ地ならし
  しただけの簡易飛行場で、建物というと燃料貯蔵庫と丸木小屋だけだった。馬の囲い(コラル)
  もあったが。
   そこがどこなのかと俺はC・3に尋いたが、知らないのが身の為だと嚇(おど)された。小
  屋には、荒くれの山男が六、七人いた。
   その夜はその小屋のキャンヴァス・ベッドの寝袋にもぐりこんで寝たんだが、狼(おおかみ)
  の吠(ほ)え声は聞えるし、放牧している馬の鈴の音が一晩中聞えて、ろくろく眠ることが出来
  なかった。小便やウンチをしたくても、情ないことに、怖(こわ)くて小屋から出られなかっ
  た。
  「・・・・・・・・・・・・」
   片山は薄く笑った。
  「朝になって小屋から出てみると、西のはるかに、残雪をかぶった険しい山脈が見えた。あと
  でわかったんだが、キャナディアン・ロッキーだった。
   トロントからついて来た白人たちが朝飯の仕度をしているあいだに、山男たちが囲いに集め
  てあった馬に乗って、放牧してある馬を連れ戻した。
   そのあと、俺たちは用意してあった防寒服に着替えさせられ、パック・ホースとかいって行
  列した馬に乗せられた。一行の馬は二十頭ぐらいだったな。俺と谷崎兄弟とトロントから来た
  連中、それに山男二人が乗り、あとの馬は荷物運びだ。
   俺も谷崎兄弟も、馬に乗るなんて、はじめての体験だ。馬があんなに臆病(おくびょう)で
  意地悪な動物だとは思わなかったぜ。しかも、荒れた原野ときてやがる。馬の野郎、熊や狼の
  臭いが流れてきただけで暴れだすし、乗り手(ライダー)が素人だと、隙(すき)をうかがっ
  て振り落したり、立木と馬体のあいだにはさんで足を押し潰(つぶ)そうとしやがる」
  「馬はライダーが素人(しろうと)なのか玄人(くろうと)なのかすぐに見抜くんだ」
 
 
 

Youtube -
How To Horseback Ride with Jenny Jones in Rocky Mountains, Alberta
| Explore Canada by CANADA Explore | Explorez
https://www.youtube.com/watch?v=yllQH5s6EsQ
 





  『
「俺や谷崎の馬は、はじめは山男のリード・ロープにつながれて出発したんだが、鞍(くら)
  に当っているケツが腫れあがったり、膝(ひざ)が痺(しび)れて死ぬ思いをしてたうちは序
  の口だ。俺は谷川で振り落とされて岩で腰と肘(ひじ)を打ち、谷崎の兄は下り坂で走り出し
  た馬から放り出され、弟のほうは転(ころ)がった馬の下敷きになった。
   その晩は谷崎の兄貴のほうが、雪解けで増水した川に落ちて凍死しそうになったのでその川
  の近くでテントを張ってキャンプをしたが、体じゅう痛くて眠れたもんじゃねえ。モルヒネを
  もらってやっと人心地ついた。
   二日目には、俺は立木と鞍にはさまれて小指を潰され、谷崎の弟は倒木にぶつけられて気絶
  しやがった」
  「・・・・・・・・・・・・」
  「三日目に、まだ雪が残る隘路(あいろ)を通ってロッキーを越えた。俺はやっとのことでちょ
  いとばかり馬に慣れてきてリード・ロープを外してもらってたから、下りは痺れた膝を直すた
  めに馬を曳(ひ)いて歩いたが、何度となく踝(くるぶし)を馬蹄(ばてい)に踏んづけられ
  る始末よ。上等のハンティング・ブーツをはいてなかったら、また怪我するところだった。あ
  のロッキー越えでは、荷馬が一頭、崖崩(がけくず)れで谷底に落ちてくたばった。
   五日目にやっとたどり着いたのが演習場だ。演習場といったって、山あり谷ありの湿地あり
  原野ありのほどんど自然のままの荒々しい場所で、広さは大体関東地方ぐらいだった。よく覚
  えている目じるしは、演習場の南の外れ近くの、胴がすぼまった臼のような山だ。
   演習場の山の幾つかの洞窟(どうくつ)が武器弾薬庫と教官連中の宿舎になっていて、俺た
  ち訓練生はテント生活だった。まったくこたえたぜ。
   あの時は生徒が百人ぐらいと教官五十人ぐらいいたかな。俺たちは毎日、格闘技と射撃と登
  山の訓練を受けた。
   リビアから一緒だったC・3とC・5は、そこに着いてから一週間でどっかに行ってしまっ
  た。俺と谷崎兄弟に、なまじ日本語の通訳がいると思うと英語が上達しない・・・・・・これから
  は、英語を習うより慣れろ・・・・・・と、言い置いてな」
   麻薬の効き目のせいで、三田村はひどく饒舌(じょうぜつ)であった。
  「訓練生のなかで、あんたら三人だけが日本人だったのか?」
  「ああ。ほかの連中は、白人と黒人が三分の二ぐらいで、三分の一ぐらいは白と黒とインディ
  オの混った中南米人らしかった」
  「そこで、いつまで訓練を受けたんだ?」
  「二か月半ぐらいだ。あそこには、いろんな肌(はだ)の女を二十人ぐらい飼っていて、週末
  に一度ずつ、俺たちも配給にあずかった。その時は行列して大騒ぎさ。
   それと、楽しみはハンティングだったな。一か月の基礎訓練を受けたあと、週に三日ずつ、
  バック・パックをかついで、大シカや野生の山岳羊や灰色熊を射ちにいった。脱走者が出ない
  ように、教官の監視付きだったが、人を殺すかわりに野獣相手に射撃のテクニックを磨(みが)
  き、仕留めた獲物を解体して、人の関節や腱や神経の束を破壊する時の参考にした」
  「・・・・・・・・・・・・」
   片山は噛みタバコのカスを吐き出した。
  「訓練が終る頃には、俺も谷崎兄弟も英語を読んだり書いたりのほうはあまり上達しなかった
  が、聴いたりしゃべったりのほうは不自由しなくなっていた」
  「訓練が終ってから、マダガスカルに直行したのか? サンチョ・パンサ号、いやラ・パロマ
  号に乗りこむために」
  「いや・・・・・・どうして俺がマダガスカルのマユンガ港から乗りこんだと知ってる?」
  「ヴェトナムとマレーシアの船員がしゃべったんだ」
  「畜生、やっぱり・・・・・・キャナダでの訓練が終ると、目隠しされてヘリに乗りこまされた。か
  なりの大型ヘリだったようだ。二時間ぐらい飛んでから、ヘリはどっかに降りた。俺たち  
  俺と谷崎兄弟と外人の卒業生二十人ぐらい  は、目隠しされたまま、今度は飛行機に乗り移ら
  された。
   そいつの飛行時間は一時間ぐらいだった。俺たちは目隠しされたまま降ろされ、十分ぐらい
  たってから目隠しを外された。その時には、俺たちを乗せてきた飛行機は、もうどこかに飛び
  去ったあとのようだった。だけど、俺たちが降ろされた場所は分った。ヴァンクーヴァー空港
  だった。そこで、カマラード・ファイヴが待っていた。ヴァンクーヴァー市内で俺たちは外人
  の卒業生と別れ、ホテルの風呂(ふろ)で垢(あか)を落とした。さっぱりするまでに三回も
  湯を替えなきゃならんかったぜ」
  「ホテルの名は?」
  「よくは覚えてねえが、下町の大きなホテルだった。ホテルのなかには日本料理店があった。
  レストランの名は何か花の名だった。その夜はカナダの女をたっぶり楽しんでから、翌日C・
  5と一緒にヨーロッパに飛び、一週間ほどパリやハンブルグやコペンなどでやりまくった。
   もう女の顔を見ただけでゲップが出るぐらいになってから俺たちはマダガスカル島に飛ん
  だ。マユンガに着いてから、C・5から偽造の船員手帳を渡された。俺や谷崎兄弟は韓国人と
  いうことになった。C・5は俺たちに、入港してくるラ・パロマ号に乗船したら、事務長
  (パーサー)の命令には絶対服従するように誓わせ、すでに用意してあったらしい拳銃(ハジ
  キ)とサブ・マシンガンを渡してくれた。ラ・パロマ号に乗りこむ際に別れてから、C・5に
  は会ってない」
  「マダガスカルのマユンガでは、どこに泊まった」
  「ジジンパだったかな、ババンパだったかな。ともかく現地語の名前がついた小さなホテル
  で、港の近くだった。俺たちのほかにも、ラ・パロマ号に乗りこむ南米やアフリカの連中が二
  十人近く泊っていた」

 (つづく)
 

 
 
 
 
 

How It's Made Western Saddles
by How It’s Made






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Last updated  2020年06月18日 20時23分25秒
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