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カテゴリ:メンタルヘルス
【ハガキに託す親への思い】
ある男性、Kさんのお話です。 Kさんは48歳。関西の高校を卒業して東京に就職した。 仕事は忙しく、朝8時に出社して朝3時に帰宅する激務。好きな 仕事なので苦にはならない。故郷に残した両親に親孝行の一つも しなくてはと、心の中では思っていた。 ある日のテレビ番組を見ていると、実家から離れて一人で暮らす娘さんが 認知症のお母さんを心配して、毎日ハガキを書いて投函しているという話 を紹介していた。娘さんが、ハガキを送り始めて1年が過ぎたころ、父親 から嬉しい電話があったという。 内容はこんなものだった。 「お母さんが治ったぞ! お前のハガキのおかげだ!」 お母さんも言った。 「ハガキ、ありがとうね。毎日、読んでいるうちにお母さん、自分を 取り戻せたのよ」 そのお母さんは元気になり、娘さんは今でも毎日、ハガキを投函して いるという内容である。 ________________________________________ Kさんはこの番組をきっかけに、自分も毎日ハガキを書いて投函する ことにした。ハガキを書いて出すぐらいなら時間もかからない。 「僕です、Kです。元気です、お母さんも元気でね。」 次の日は、「今日は、寝坊した。でも元気です。」 その次の日は、「今日は雨です。風邪をひかないようにしてね。」 短い文章だが、書くことにも慣れKさんの日課となった。 しばらくして、お母さんから返事が来た。 「びっくりしたわ。でもすごく嬉しい。ありがとう」 Kさんは気恥ずかしかったが、喜んでもらえてよかったと思った。 半年が経った頃、Kさんの携帯にお母さんから電話がかかってきた。 一瞬、母からの電話なんて珍しいな、と思った。 「特に、用事はないけど押入れを整理していたら、あなたの子供の 頃の写真が出てきたから、嬉しくなって電話してみたの」 そんなやり取りだった。 Kさんは胸騒ぎがして、2歳下で看護師をしている妹に連絡をとった。 「口止めされている」という妹は、母にガンが見つかったと言うのだ。 両親は忙しいKさんを気遣い、内緒にしていたらしい。 医師の診断では、あと2~3か月という。Kさんはショックを受けた。 次の日から、ハガキの内容が少し変わった。ガンを乗り越えた人の話や 元気になれそうな言葉を書いて送った。 何一つ、親孝行らしいこともしていないのに・・・・。 奇跡が起きてほしい、何とか元気を取り戻してほしい・・・。 そう願わずにはいられなかった。 入院と手術を繰り返す母。見舞いに行けば気丈に振る舞うがベッドの 母の体は細く、小さくなっていた。医師はK さんと妹さんだけにレント ゲン写真を見せながら、ガンがリンパを通り全身に移転している、 そして「もう、あまりもたないと思います」と告げられた。 ________________________________________ 三日間、Kさんは仕事を休み母のそばに寄り添った。東京に戻る直前 「時間作って、また来るから」というKさんに 「無理しなくていいよ。体に気をつけてね。奥さん大事にしてね」 これが、最後の母と息子の会話となった。 東京に戻って約一ヶ月が経ったある日、その日はKさんの誕生日でも あった。お母さんの容体が急変したという連絡が入った。 Kさんは今まで言えなかった感謝の言葉と、たくさんの気持ちや想いを 母に何としても伝えなければ、と思った。 Kさんは病院にいる妹さんに電話をかけた。 「かあさんには悪いけど、起こしてほしい。そしてその携帯、かあさん の耳元にあててほしい」 Kさんはゆっくりと、はっきりとした口調で 「かあさん。生んでくれてありがとう。今まで言えなかったけど、 ほんとに感謝してます。僕の誕生日まで頑張ってくれて、ほんとに ありがとう」 少しして妹さんの声がした。 「かあさん、聞こえてたようよ。しゃべるのは無理だけど、お兄ちゃん の言葉にウンウンってうなずいていた」 ________________________________________ 三日後、Kさんのお母さんは旅立たれました。 通夜の席で、落ち込んでいるKさんに伯母の方から言われたそうです。 Kさんが毎日、送ってくれたハガキをお母さんが「嬉しい」と言って 伯母さんに見せていたそうです。 そして、「あのハガキが何よりの親孝行だったよ」とお母さんが思って くれていたことを知り、Kさんは涙したそうです。 一年後、Kさんが実家で資料の整理をしていると、一冊のノートが出て きました。お母さんに送った、ハガキのコピーがしっかりと貼り付けて あり、ページをめくっていくと母の字で次のように書いてありました。 『Kは男なので、男同士、お父さんのことも気にしてあげてね』 その後、Kさんお父さんにもハガキを毎日投函しているそうです。 「Kです。お父さんどうしてますか? 僕は元気です! 今度そっちに帰ったら、一緒に銭湯にいきましょう。」 また、小さくて大きな「親孝行」を始めたそうです。 (参考文献:谷口雅美著「99のありがとう」) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年01月18日 10時21分48秒
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