カテゴリ:第1章 哀しみに散る花
エドは不意に私の肩に手を回すと、そのままベッドに倒れこんだ。 「い、いやっ……!」 「アリシア、歌を歌って下さい」 「え?!」 「あなたをジョージに寝取られ、婚約の夜なのに拒絶され、その上、傷まで負わされ……」 「エド……」 「それでも、あなたを愛している。そんな憐れな男のせめてもの心の慰みに子守唄でも歌って下さい」 エドは、仰向けになったまま行儀悪く靴をポンポンと脱ぎ捨てると、ネクタイを緩めて「疲れたぁ……。あなたも今日一日愛想笑いで疲れたでしょう」と呟き、目を瞑った。 「そうだ。グリーンスリーブスがいいなぁ……」 「私、音痴だから、ダメ」 「だったら、尚更聞きたいですね」 エドはくすっと笑った。 「僕は物心ついた時から家庭が無かった。両親の仲は冷え切っててね。毎晩、両親の部屋からは言い争う声が聞こえた。そんな時、いつも耳を塞いで、この歌を口ずさんでは救われていたんだ」 突然、彼の口から出る彼の小さな頃の話に驚き、胸を痛めた。 「アリシア、僕をもっと知って下さい。こんな話をするのもあなただけだ。オリビアにすら言っていない」 エドは私の手を掴むと、グリーンスリーブスを口ずさみ始めた。 「Alas my love you do me wrong to cast me off discourteously……」 「エド……ごめんなさい……」 「And I have loved you so long, so long, Delighting in your company」 「あなたをいっぱい傷付けた……」 「Greensleeves was all my joy, Greensleeves was my delight」 「エド……」 「Greensleeves was my heart of gold, and who but my lady Greensleeves」 歌いながらエドは私の髪をその手に巻き付け、余程疲れていたのか、そのまますぅーっと眠ってしまった。 私よりもずっと大人の男性のはずなのに、その少年のような無邪気な寝顔に思わず手で彼の頬を撫で、私はひどく動揺した。 私は、エドワード・マッカーシーをいつまで拒絶しきれるんだろう。 知れば知るほど、この人に惹き付けられてしまいそうで怖い……。 遠く窓の外に光る星々を見上げながら、私は思わず「ジョージ、お願い。帰ってきて」と呟いていた。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります 「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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