カテゴリ:第2章 泡沫の夢のように
良く整髪された金髪。 皺一つ無いスーツ。 世界トップクラスの経営手腕を注目されるCEO。 16歳も年上の私の夫、エドワード・マッカーシー。 その彼が、血相を変えて私の方へ駆けて来る…… 「失礼!」 廊下を行き交う看護婦や医師達の合間を縫い、そして私の目の前で立ち止った。 見上げていたエドのスーツがみるみる近づき、私はその腕の中に抱きすくめられた。 「アリシア!朝のニュースを見て心臓が止まるかと思いました」 彼を抱き締める手に力を込めた。 「なぜ、こんなところに座っているんですか。治療を……」 「怪我はしていないの。この血は庇ってくれた先生のなの」 「赤ん坊は!?」 私ははっとしてお腹に手を当てると、「大丈夫」と頷いた。 彼が「良かった」と胸を撫で下ろしている様子に、私は少なからずとも驚いていた。 私はエドに男達に襲われたことを手短に説明した。 「それで、Mr.フジエダは?」 「あそこで手術中だわ」 私はオペ室を指差した。 「そうですか……。彼には感謝しているが、ここに座っていては体に触る。取り敢えず、病室に戻りましょう」 「先生の無事を確認出来るまで待つわ」 エドは立ち上がると一人の看護婦を捕まえ、名刺を渡していた。 「さぁ、これで大丈夫です。彼の手術が終わったら最上階の特別室に連絡を入れるようにお願いしましたから」 「……手際が良いのね」 「そうしないと、あなたはここをどかないでしょう」 そつのない彼の行動にひとつの疑惑が頭を過る…… 先生はエドのことを疑っていた。 ジョージの船が沈んだ一連の事件の黒幕が、アルバート・マッカーシーであることを考えると、その弟、エドワード・マッカーシーが一枚噛んでいると考えても不思議ではないかもしれないと先生は言った。 だけど…… 体がフワリと浮き、慌てて足をバタつかせた。 「下して!下ろしてってば!!エドワード!!」 「あなたが頑固だからです」 「こんなところで恥ずかしいわ!」 「妊婦の妻を抱き上げて、何が恥ずかしいのでしょう?それにそんなに血みどろの恰好で座っていては周りが驚きますよ」 冷静な彼の声に、再び、私の胸の中に警告ランプが点滅する…… さっきまで安心して抱き締められていた彼の胸の中で、完璧すぎる彼の対応に、私は極度の緊張状態に陥っていった。 病室の扉を開け、下ろされたソファの上で、目線を下ろすと私は「ぷーーーーーーっ!」と噴き出していた。 完璧なまでに完璧な大人の男性……のはずだったエド。 私は再びエドの首に両腕を巻きつけると、泣きながら笑った。 「慌てていたんです。……そんなに笑わなくてもいいでしょう」 彼は耳まで真っ赤になりながら、私が以前彼にプレゼントしたあひるちゃんのモコモコスリッパを履いた足をソファの下の隙間に隠した。 ↑ランキングに参加しています♪押して頂けるとターっと木に登ります 「フラワーガーデン1」はこちらです。良かったらお楽しみ下さい♪ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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