フリーウエイ777 vol.20 そこには渇いた風と、眼のくらむような世界のかけらがあった。
そこには渇いた風と、眼のくらむような世界のかけらがあった。視界の許す限り、どこまでも拡がる砂漠、だがそれもまた世界の一部に過ぎないのだ。しかし、その頂きに立ってはじめて、彼はこのらせん道路を作った人間の不条理な情熱のようなものを全身で感じた。おそらく、どうしてもこれを作らずにはいられなかったのだろう。その理由を聞かれても、多分答えられなかっただろう。ただ、ここに立ちたかった。それだけを望んでいたに違いない。その応えはおそらく風の中にあったのだ。尚もじっとそこに立っていると、何処からかボブ・ディランの「風に吹かれて」が流れてくるような気がする。ディランのあの、絶望的でいながら、同時に無限の希望に満ちたしゃがれ声が今にも聴こえてくるようだった。時間がゆっくりと過ぎて行く。ここにはまったく別の時間が流れているようだ。どこか遠くの惑星にでも来たようだ。はるか遠くで、鳥の声が響く。ワシだろうか、それともハゲタカだろうか。姿は見えない。下を見ると、ジャガーがおもちゃのように小さく見える。どこにも人影はない。見渡す限りどこまでも、すべてが彼の領土のようだった。presented by 古本情熱物語