2006/03/07(火)15:04
小説「白蛇の道」5
彼からの電話がしばらく遠ざかってるのに、
無言電話だけはかかってくる。
うちの固定電話は、着信履歴が出ないからな。
無視するしかないと思っていても、嫌なものだ。
そんな電話には出なければいいものを、
もしかして彼からではと、思わず受話器を取ってしまうのが哀しい。
白蛇は相変わらずうちに居座っている。
昔から棲んでいたような顔をして。
これでも、用心棒代わりにはなるだろうか。
無言電話の時、一人は心細いのだ。
彼に助けを求めたくても、連絡が取れない。
仕事用の携帯には電話しない約束なのだ。
彼から電話がかかってくるのを待つしかない。
電話をただ見つめていると、迫ってくるような感じさえする。
「自分から、かければいいじゃないか。」
心を見透かしたように、白蛇は無責任に言い放つ。
「そんなこと言ったって・・・」
かけたら、仕事の邪魔だし、気を悪くさせてしまう。
嫌われるのが怖いのだ。
でも、このままだと、自然に離れてしまうかも。
勇気を出して、かけてみようか。
一応、緊急用にと電話番号だけは教えてもらってるのだ。
もう夜だから、仕事も終わりかけてるかもしれない。
思い切って、電話のボタンを押してみる。
でも、震えてしまって、うまく押せない。
拒絶されるのが怖ろしい。
震える手から、電話が零れ落ちた。
白蛇がすっと寄ってきて、
電話を取り囲むようにとぐろを巻く。
「なぜそんなことをするの?」
声まで震えてきてしまった。
「電話しないのなら、要らないだろう。」
私を挑発しているようだ。
その手には乗らないわ。
「そうね。要らないから持っていって。」
後ろを向くと、台所に逃げ込んだ。
何か食べるものはないかしら。
心の飢えを食べ物で満たそうなんて、哀しいけど。
冷蔵庫を開けても、ろくなものはない。
買い物に行ってこようか。
気分転換になるかもしれない。
ただうちで彼の電話を待ってるだけでは虚しい。
歩いて近所のコンビニへ行った。
立ち読みしてる人や、外でたむろしている若い男女もいる。
夜行き場のない人たちの溜まり場のようだ。
私のその一人なのだけど。
お弁当とティラミスとウーロン茶を持って行き、レジを済ませる。
顔なじみの店員がいるわけでもないから、会話もない。
すぐに帰ればいいものを、雑誌の立ち読みする。
特に読みたいわけではないけれど、
ただあの部屋に帰りたくないだけなのだ。
こういうとき、どこに行ったらいいのだろう。
うちに居るより、かえって孤独を感じてしまうのに。
実家にはしばらく帰っていない。
時々母が心配して電話をくれるけど、
素っ気無く返事して切ってしまう。
付き合ってる人はいるのかとか煩いのだ。
彼を紹介しようかとも思ってたけど、
こんな状態ではとても言えない。
結婚して、孫を期待してるのを知ってるから。
両親が仲悪いのを見て育って、
結婚なんて、と思ってるのに。
母も、自分のことは棚において、
早く結婚しろだなんて、勝手だよね。
彼とならもしかして、とも思っていたけど、
やはり彼もただの男だったのかな。
なかなか最後まで許さない私から離れていくのかも。
今までの男もそうだった。
両親のことがあるせいか、性に拒否反応があるのだ。
白蛇のことで、うちに泊まってくれたときも、
我慢してくれたのかな。
それから連絡が少なくなったような気がする。
白蛇のせいではなく、私のせい?
それならそれで仕方ないかもしれない。
私は一人で生きていくしかないのかな。
そういえば白蛇がいたっけ。
思わず、含み笑いをしてしまった。
声が漏れたのか、横で立ち読みしていた人に
怪訝そうな顔で見られた。
さあ、白蛇の居るうちに帰るか。
出来たら最初から読んでいただけると、ありがたいです。
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