修羅
ああ…最近どういう訳かあの時のことをよく思い出す。信じていた者に手酷い裏切りを受けて立ち直れぬほどに打ちのめされたあの時のことを…。自分を利用するためだけに、腹の底を隠して薄笑いを浮かべて接してきていたあの表情が今も自分を苛むのだ。赦すという行為を赦し続けることだと認識出来ていないなら、軽々しくそれをすべきではない。そう、赦してなどいないのだ。それを赦しているかのように装うから無理が出る。大切な者を守ろうとして背負った十字架は僕には重すぎた。きっとまた、あの白々しい笑顔を僕に向け、腹心無き身近な存在であるかのごとく装うのだろうな…。特定の個人を抹殺したい…。冷静に思うと身震いするような恐ろしい感情…。僕の心には確実に鬼が棲む。その鬼を僕に植え付けた存在が憎い。それでも僕は残された生をこの鬼と共に、それまで知らなかった修羅の道を進まねばならぬのだ。