今だから語れる、熊川のロイヤルバレエ退団の真相(1)
この前、CNNのドキュメンタリー番組「Revealed」で、熊川哲也が特集されたことをお伝えしました。Webサイトでは、放送されなかった部分も含めてインタビューの全容が、「Q&A」という形で載っています。とっても内容が濃いので、ご紹介したいと思います。(英語の得意な方は、サイトを見てくださいね)熊川哲也、アンソニー・ダウエル、モニカ・メイスンの3人について、それぞれインタビューが行われていますが、インタビュアーがもっとも力を入れて質問しているのは「熊川哲也の英国ロイヤルバレエ団退団事件」についてです。(以下、アンソニーの言葉はweb上の英語を私流に訳しました。地の文は私の言葉です)あえて「事件」と書くのは、これは日本人が考えるよりずっと、大変なことだったから。当時イギリスの新聞「デイリー・テレグラフ」は、第一報を一面トップで報じたくらいです。当時の芸術監督アンソニーはいいます。「地獄に突き落とされたかっていう気分だったね。だって、シーズンの途中だったし、その上彼は数人のダンサーを一緒に連れて行ってしまったから。あの時の傷は、まだ完全には癒えていないよ」とアンソニー。よっぽどショックだったんでしょう。でも、彼はオトナ。こう続けます。「もちろん、私とテディの間では、すべて許してるけどね。彼が自国でカンパニーを立ち上げることがどんなに重大なステップアップだったかは理解している。しかし私に言わせれば、メジャーなカンパニーと契約中で、もう踊るスケジュールが決まっている時にやる決断じゃない」そうでしょう、そうでしょう。彼のファンである私だって、その年10月から「Mr.Worldly Wise」に出演すると決まっているのを蹴って直前に退団するって、どういうこと?…と思ったくらいですから。「Mr.Worldly Wise」は、トワイラ・サープが熊川のために振付けた、というくらい、彼なしでは成り立たない演目なのです。「ここが自分に合わないと思ったら、出るのは自由だ。それは私もわかる。 でも、やり方っていうものがあるでしょう」たしかに「まだ傷は癒えてない」感じ。でも、そんなアンソニー、どうして今、Kバレエの名誉総裁をやったりして熊川と仲がいいんでしょう??「最初彼が立ち上げたKバレエと今とでは、実際かなり形が変わっています。 現在のKバレエ団は、正直賞賛に値するし、私は彼が成し遂げたものが誇らしい。 彼は今、(ダンサーだけでなく芸術監督として)逆の側からもバレエ団を見ています。 そして、かつて私が芸術監督として経験した「問題」も、経験しているでしょうから、 (自分がやらかしたことの重大さにも)気がついているでしょう。アンソニーは、名誉総裁を引き受けた経緯を、こんなふうに説明しています。「彼が私に名誉総裁になってくれと頼んできた時、 私はKバレエにとって、マーガレット王女のような立場なんだ、と思いました。 ロイヤルバレエはずっと王女を名誉総裁に戴いていましたし、 テディはそういうものがほしかった。 私はとてもうれしかった。「出奔騒動」のあんな怒りの後で、こんな光栄なことが起こるなんて。 アドバイザーとして関わってくれ、という頼みだったけど、 今じゃ舞台に上がることもあって、これがまたとっても楽しいんだ」インタビュアーは、熊川のケガについて、次のような質問しています。「ケガしたダンサーが戻ってきたとき、パフォーマンスに影響がありますか?」「これは彼にとってはじめての大きなケガです。 彼のバレエキャリアにおいて、ものすごく遅くに訪れた。 大きなケガの後、どんなふうにカムバックするか。そこに、たくさんの「調整」があります。 どうやって戻るか。たくさんのことが頭をよぎるでしょう。 きっと彼はうまくやりますよ。私は、「禍転じて福となす」と考える方なんでね。 これはバレエ団にとっていかに観客が大切かを知るチャンスなんだ。 いつか熊川も主役を踊れなくなる。 Kバレエはとてもいいプロダクションをもっているのだから、 (ダンサーとしての)熊川がいなくても、このカンパニーのクォリティが観客を魅了し、 それがずっと続くことを願っています」 他にも、アンソニーが彼を見初めた時の話などが載っています。詳しくは、Webまで。明日は、自身も高名なダンサーであり、アンソニーが芸術監督時代、その片腕として熊川を指導したモニカ・メイスンのインタビューの概要をお届けします。アンソニーよりずっと身近で熊川を見てきたモニカの意見には「なるほど~」と思うこと多々あり。また、アンソニーとともに組織の苦悩にもつきあっていたので、「電撃退団」の裏側がもっとあらわに「Revealed」です!