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34日ぶりに、母を訪ねた。 11時半。勝手に鍵を開けて入る。テレビが鳴っていない。キッチンを開けると、食事をしていた。 「朝ご飯」 年寄りのくせに夜更かしの朝寝坊だ。 「なんで、テレビ点けへんのん?」 「また、あかんねん。ここにあったん調子が悪いから、あっちの間のんと置き換えてもうたのに、これもあかんようになった。マミが、買うて来てくれる言うてたけど、もう4日にもなるのに買うて来ェへん。ラジオは、耳が悪いからイヤホンつけて聞いてんならんから、しんきくさいしな。本読もう思うたら、お姉ちゃんが置いて行った本は探偵小説ばっかりや。ミシンしようと思うても、けむりが出るしなァ。新聞の読み飛ばしたとこ、あっちこっち読んでるねん」 「電気屋さんへ電話掛けて、テレビ持って来てもうたらええのに」 「マミが『買うて来る』言うてたのに、勝手に買うたら悪いやろ」 テレビを入れ替えた時に、どこか接続が悪かったのではないかと裏を覗いてみたがきちんと付いているようだった。2台のテレビが相い前後して壊れるというのは、どういうことだろう? 12時にヘルパーさんが来て、新聞の折込みチラシを見て買い物の注文をした後は、最近の話や昔のことをたっぷり聞かされた。 85歳になる姪が、頭を打って「薬が欲しい」と電話を掛けて来たという。 「孫が看護婦してる病院へ入れてもうて、二週間ほどして退院したそうやけど、頭の痛いのは治れへんねんと。昔から、よう頭ぶつけたり物が落ちて来たりする子やけど、うちの薬でいつも治してたから、うちの薬がやっぱり一番よう効くて。塗ったら痛いのんぴたっと止まるもんな。ススム(長男)に取りに行かすいうから、ススムちゃんにあげるもんも用意して待ってるのに、取りにけェへんわ。息子の自慢ばっかりしてるけど、さあというてもあてになる子がおれへんねん。孫にお金ばら撒いても、用事もよう頼めへん。あんた、送ったって」 「初めからうちへ電話して来たらええのに、イヤや」 「あんたに、送ってもうて、言うてたで」 「ツーちゃんとこへ送っても、なかなかお金送って来ェへんから、いや」 「お金は私が払うから、送ったって」 母も、最近は自分の分でも払ったことがないのに…… 「寝てるねんて。電話掛けたって」 「寝てるのに、電話に出ェへんやろ」 「掛けたって」 仕方ない。掛けた。呼び出し音11回。切った。 「寝てるから出ェへんわ。オトコノコ、学校から帰った頃しかあかんわ」 「中学校やで」 オトコノコというのは、同居している三男の子供で、三男が離婚してツーちゃんが2歳から育てた。 「中学校やったら、その子に電車で取りに来さしたらええのに」 「だーれも間に合えへんねん」 ツーちゃんは昔から、三人の息子と五人の孫が自慢だった。電話してきて二時間も三時間も自慢話を聞かされ、うんざりだった。 「病院は、二週間かかっても、打った頭の痛いのんよう治せへんねんなあ」 「よう治せへん。どうせ、レントゲンかけたりエコーかけたりしただけやろ。病院では、結核もなかなか治れへんらしいなあ。うちの薬は結核なんか簡単に治るのに」 母は、親類の人が結核を患った時の話をした。 「小さい缶にいっぱい、薬を入れて持って行ったった。『こんなもん、ほんまに効くかァ?』言うからな、『わてがあんた騙してどんなけ得があるのん。売ると言うてんのやないで。飲んだら病気が治ると言うてんねん。怪しいと思うんやったら、飲まんとき』いうて、持って帰った。結局、それから7ヶ月ほどして死んだ」 「叔母ちゃんとこの義理の孫、結核のお母さんと一緒に暮らしてたから二人とも、叔母ちゃんが引き取った時は4期で入院言うてたのに、学校も休まんと治ったなあ」 「あの子、まだ生きてる?」 「元気やわ」 そんな話をあれこれして、3時半頃、帰ろうと立ったところへマミが長男と一緒に来た。 「テレビ、早よ買うたってや。もう全然映れへんねんて」 「ふうん」 マミは私と同じように。テレビの後ろを覗いた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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