鞆の浦殺人事件
広島県福山市の鞆の浦は、瀬戸内海国立公園を代表する風光明媚な景勝地である。海には、仙酔島、弁天島などの島々が浮かび、絵のような風景が広がる。 また、鞆の浦は、潮の満ち引きを待つ潮待ちの港として古来より栄えてきた。また、織田信長と対立した足利義昭が、毛利の庇護の下に鞆幕府を開き、形式上は、日本の中心であった時期もある。 有名な「対潮楼」は、元禄年間に創建されたもので、国の史跡に指定されている。ここから見る瀬戸内海の風景は格別である。 沼名前神社は、延喜式にも記載されている古社であり、「大綿津見命」と「須佐之男命」が祭られている。 また、鞆の浦には、養命酒の源流ともいえる「保命酒(ほめいしゅ)」という薬用種もある。 「鞆の浦殺人事件」(内田康夫:講談社文庫)は、この鞆の浦を舞台にした、浅見光彦シリーズの小説である。 軽井沢の先生こと内田康夫は、ホテルに缶詰になり原稿を書いていた。ホテルにある囲碁サロンで間宮という老人と知り合いになったが、その間宮氏の失踪騒ぎに巻き込まれ、浅見光彦に助けを求める。 しかし、内田の会った間宮氏は、ホテルに泊まっている間宮氏とは別人であった。それから数日後、鞆の浦で、渡し舟の老船頭丸山が不審な死を遂げ、内田によると、それが彼が会った間宮氏であるという。さらに、仙酔島でN製鉄常務の川崎が不審死を遂げていたのが見つかる。光彦は、鞆の浦に向かい、旧知の野上警部補と事件を探る。 話は総体的には面白かったが、犯人の殺人の動機が,上役にいつ切られるかという疑心暗鬼というのは少し現実感に乏しいように思う。もっとリアリティのある動機を設定して欲しかった。「鞆の浦殺人事件」(内田康夫:講談社文庫)