カテゴリ:映画・ドラマ
山田太一さんが11月29日、お亡くなりになった。89歳。 私がドラマが大好きになり、レビューを書くまでになったのも 全ては山田太一さんの作品を観たことから始まっている。 そこで今週は、山田太一さんの代表作について書いたブログを 拙文ではあるが、再掲したい。山田太一先生、数々の名作を ありがとうございました。心よりご冥福をお祈りいたします。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 2020/07/20初出 何年たっても色褪せない。不朽の名作ドラマ。 それは自分にとってドラマを単に楽しみで見るということだけでなく、 「作品作り」という視点で興味を持って観るきっかけを与えてくれた。 日本のテレビドラマ史を語る上で欠かすことのできない名作。 山田太一さん脚本「岸辺のアルバム」(TBS・1977年)である。 作品が生まれて43年経った今、幾度目の観賞だろうか。 現在「Paravi」で配信されている。 主演の八千草薫さん、その夫役であった杉浦直樹さん、 八千草さんの浮気相手役の竹脇無我さん、 息子が通う高校の教師役の津川雅彦さん、 皆さん既に鬼籍に入られた。時代の移ろいを感じる。 私が作品を初めて見たのは、中学生の頃(1979~1981年頃)だったと思う。 たまたまテスト期間か何かで、平日の午後早く帰宅した。 その頃は大人向けのドラマを14時台に再放送していたのだ。 今でも覚えているが、杉浦直樹さんと八千草薫さんが言い争っているシーン。 このシーンが何ともリアルで「いったい誰がこんな脚本を書いているのか?」 そう思ったのだ。 というのも、当時の自分にとって、杉浦さんや八千草さんは知らない人。 小学6年生のときにクラス会で脚本を担当し、ドラマ作りへの芽生えがあった。 だから脚本に興味が集中したのだ。 これは後に、作品終盤のハイライトとも言える12話のシーンだとわかる。 息子役の国広富之さんが家族の秘密を全て明かしてしまう。 その後に寝室で夫婦が言い争う場面だった。 リアルを象徴するのが、夫が妻の不貞を問い質すつもりが、 息子から殴られた右目の腫れを妻に指摘され、鏡を見るというシーン。 そこで急に翌日の重要な商談を思い出し…という展開。 シリアスな場面なのに、夫婦関係が持つ日常性の呪縛から、 少々滑稽な、そして哀愁も感じるシーンとなっている。 作品展開上も需要なシーンであることは間違いないが、 ここだけを取り出しても十分に人を惹きつける力がある。 実際に中学生の自分はドラマを最初から観ていたわけではなく このシーンを偶然目にして、テレビ画面から目が離せなくなった。 脚本家・山田太一の筆が立ちまくっている名場面だ。 もちろん自宅が濁流に流される最終回は脚本だけでなく演出も実に素晴らしい。 実際に起きた多摩川の堤防決壊をドキュメンタリータッチで入れ込み 大雨のシーンが多いため、撮影は相当な苦労があったと想像する。 また今回、自分が50歳を過ぎて気づいたのが、八千草薫さんの表情の変化。 「貞淑な妻」のイメージが強かった八千草さんが浮気する役! というインパクトは当時かなり話題に。 前半の竹脇無我さんと浮気しているときの八千草さん(当時の実年齢46歳)は 綺麗なんだけど、どこか無理している印象が否めない。 しかし浮気をやめて、普通の貞淑な妻に戻ったときの八千草さんのほうが 何だか艶があるのだ。圧倒的に綺麗なのだ。 これ、意図的に芝居、あるいは演出していたのであれば、凄すぎる。 そういえば、劇中、八千草さんは役名の「則子」という名前で呼ばれたことが無い。 夫からは「お母さん」、もしくは「おまえ」。浮気相手からでさえ「奥さん」。 「母」という立場でしか存在しない。そんな専業主婦の悲哀を表現している。 そして、もう一つの気づきは「昭和一ケタ、猛烈サラリーマンの父親像」が この時代を期に、変化を余儀なくされたんだなーという感慨である。 つまりこの頃、日本の父親は『威厳』を失うのである。 この『威厳』を失う父親を実に切なく、そして、どこか滑稽に演じ切っている 杉浦直樹さんという役者を無しに、この素晴らしい作品は生まれなかったろう。 その他にも、若かりし国広富之さんの熱演ぶりには改めて感嘆するし、 中田喜子さんはクールビューティーで本当に魅力的。 素晴らしい脚本に、こだわりの演出。そして実力派揃いの役者陣。 全てが揃って、この作品は完成した。 何度見ても新たな発見がある。 まさに不朽の名作なのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.12.04 18:54:02
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