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芒洋の日々 

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October 7, 2006
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カテゴリ:断食日記
バーミンガムの10月にしては、良く晴れた一日だった。風も心地良かったし、澄み渡る青空は、“秋晴れ”という言葉を思い出させた。朝から仕事に行っているタリク以外、他の人たちはまだ夢の中だったが、午前中ラシードと一緒に家の掃除を行った。共同生活を送る者にとって、掃除というのはなかなかの難問である。先月まで住んでいた大学の寮では、週毎に2人の担当者がキッチンの掃除をすることになっていたが、それでも奇麗に保つのは難しかった。一つには清潔さの感覚が人によって違うためで、新学期が始まっても寮に残り続けている友人たちは、イギリス人学生は誰一人掃除しないということをいつも嘆いていた。文化という名のもとの本質主義を私はもっとも気嫌いしていたが、実はこちらに来て絶望的と言えるほど、文化間に横たわる溝の深さを認識せざるをえなかった。

さて、その掃除だが、この家ではラシードを中心に毎週土曜に行われているようだった。先週はロンドン行きでいなかったこともあり、この日朝から起きて私も手伝うことにした。午後はそのまま、私の2ヶ月の念願でもあったテレビを買いに、2人で近所のモールに行った。ここでの主流は、既にLCDと呼ばれる薄型テレビになっているが、私は隅っこで小さくなっている従来のブラウン管型テレビを何軒かの店で見て回った。ただ問題は、これらのテレビは決して“小さく”はないことである。一番安いものだとフリーザの第二形態の頭か何かのように、後ろ側が長方形型に延びており、置き場に困ることは明らかだった。その中から比較的直方体型のものであった、HITACHIの15インチ、60ポンドのテレビを選ぶことにした。

私としては、一刻も早く部屋にテレビを設置し、今晩のイングランド×マケドニア戦に備えたいものだったが、ラシードがテレビを買う前に近くの公園に行こうと言うので付いていった。その公園は、アストンの北に隣接するペリー・バーという街にある。家から歩いても15分程度のところだが、その短い散歩の内に国を跨いでしまったかのように、すっかり街の景色を変える。まず犬をよく見かけるようになり、これは白人たちの生活圏であることを意味した。犬を忌み嫌うムスリムは勿論だが、犬を散歩に連れて行く黒人の姿もあまり見かけなかった。

ラシードがイギリスに来た最初の年に、歩いていたらたまたま見つけたというその公園は、同様にペリー・バーという街からも更に異質な空間にあるように感じられた。鳥たちが戯れる湖とどこまでも拡がる深緑の芝が、あまりにも美しく、中世の片田舎にでも来てしまったかのようでさえあった。土曜日であったにも関わらず人も少なく、地面に映る雲の動きを眺めながら一人思索にふけるにはもってこいの場所であった。かといって、2人で来るのにも(それが男同士であってもだが)勿論悪い場所ではない。私はそこで、ラシードの過去の恋の話を聞くことになった。それは、“恋バナ”などと言うほどには軽くはなく、ロミオとジュリエットのような話でもあった。

そういえば、先月LULに連れられて初めてラシードに会った時、ガール・フレンドが人を老いさせるというようなことを言っていたことを思い出した。彼は、今日はどこの誰々とデートしてきたなどというような話をよくするが、その実一人の女性のことが未だ忘れられないのだ。その女性は、中国系のマレーシア人で、やはり彼のイギリスでの最初の年に出会った(ちなみに、何日か前のblogでは間違えて書いたが、ラシードはパキスタン人であった。どういう勘違いか、LULからはマレーシア人だと聞いていた。また、本人もそのことをあまり名乗りたがらなかった)。2人が蜜月の関係にあった頃、この公園にも度々来た。一度、カリビアン系の住民のお祭りが行われていたことがあり、その時に食べたコーンのお菓子の香ばしさを今でも覚えているという。しかし、それは2001年の夏だから、もう5年も前のことである。また、彼女が気に入っていたという場所は公園の奥にあり、それは『第三の道』のラスト・シーンで映る並木道に似ていた。そのことを言うと、彼は妙に喜んでいた。

簡単に言えば、2人の関係を壊したのは宗教である。この若い2人が結婚ということを考え始めた時、ぶち当たったのは彼がムスリムであるという現実だった。イスラーム教では、キリスト教やユダヤ教などの他の一神教徒との結婚は認めているが、無神教や多神教者との結婚は禁止されている。従って宗教を持っていなかった彼女と結婚するには、彼女がイスラーム教徒になるか、あるいはラシードがイスラーム教に反するかいずれか2つの道しかなかった。彼女は、ムスリムになると言っていたというが、それは心からではなかったという。それに、もしそうなっていたとしても、ムスリムの生活に彼女は耐えられなかったのではないかとラシードは思っている。かといって、ラシードも宗教に背くことはできなかった。それは、彼の信心は勿論だが、家族と生まれ故郷に背くことでもあったからだ。

また、直接は言わなかったが、9.11以降の社会の変化も2人の関係に影を落としたことは想像するに易い。昔と違い今では、ムスリム以外の人と良い関係を築くことは難しくなったと彼は語った。
しかしかといって、彼らを非難しているわけではなく、どちらかと言えば彼の批判はムスリム自身に向かっていた。ラシードは、イスラームへのアンヴィバレントな感情を胸に抱いているようであった。

こうして彼女はロンドンへと去り、彼は幾多の記憶と共にこの地に留まっている。


その夜、ラシードの部屋でサッカーの試合を見ながら、断食を破った。というのも、テレビは設置したものの、アンテナを買い忘れたため、私の部屋では何も映らなかったためである。EURO2008の予選だが、試合は0-0の引き分けで、テレビを買いに行くほど面白いものでもなかったが。更にその後、深夜一時まで居座り、韓国の少し難解なホラー映画を鑑賞した。部屋の壁に貼ってあった『SAYURI』のチャン・ツィイーのポスターを眺めながら、彼に年を取らせた女の人は一体どんな人だったのだろうかと思った。






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Last updated  October 9, 2006 04:29:24 PM
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