【巨星…逝く】
Chizuko Hagiuda Photo by Kazuki Okada* * *【巨星…逝く】 あの大作家の井上ひさしさんが、4月9日、静かに旅立たれた… この数日、ショック…というより、力が抜けて、どうやって立ち上がれば…と 分からぬまま、うろうろとした思いの中で漂っていた。何と言って良いのか、いくら探しても言葉が見つからないのだ。言葉遊びの神様といわれた井上さんに向かって言える言葉を探すのは、月に行くより難しい。 私は今、芝居の稽古で、東京の新国立劇場の稽古場に通っている。井上ひさしさんの作品で、【東京裁判三部作】の三部目の、『夢のかさぶた』の、山形弁の方言指導をしている。井上さんも山形のご出身で、山形弁が出てくる作品や山形が舞台の作品が多くある。その関係で、井上さんの仕事は、30数年前から関わらせて戴いてきた。 この三部作は、4月8日初日『夢の裂け目』~『夢の泪』と続き、『夢のかさぶた』が終わる(千穐楽)のが6月20日…何と、二ヶ月半の公演になる。 井上さんは、この公演の幕開けを、大変楽しみにしていらしたそうだ。ご子息さんが、初日の舞台を観に来られ、その報告を受けられた翌日、鎌倉のご自宅で本当に眠るように息を引き取られた…と。 しかも、ご本人は、騒がないで欲しい…と仰ってたので、お身内だけでひっそりと見送られるおつもりだったそうだ。どこまでも井上さんらしい。 しかし、まだまだ遣り残された事があったと…沖縄の戦争の話も、後10本書く。それから、広島のこと、長崎のことも…と、お嬢さまから伺えば、惜しくて悔しくて地団駄踏んで、大声で泣き叫びたくなる。 いつも、切り口が新鮮で、発想が新しくて、筆力の落ちない…というより、書かれる度に、益々豊かな転換に驚かされて来たし、まだまだ、これからも書いて下さる筈の作家だったし、書いて欲しかったし、返す返すも残念無念…としか言いようがない。 それを次世代の私達がどう引き受け、どう継いでいけるのか…考えると、余りにも存在が大きすぎて、自分の無力さと小ささを感じて胸が痛くなるのだが…。 でも、第二次世界大戦の事を伝えられる最後の世代(勿論、私達は戦後生まれで追体験でしかないのだが…)である私達が伝えて行かなければ、あの戦争は風化してしまう。誰かの命ではない。自分達の命だ。自分達で守らないで誰が守るのか…次世代に償えるものは何なのか…そう考えると、やはり、無力でも、微力でも、残された時間を、精一杯使って、わずかずつでも、生きることの意味を伝えなければと思う。そして、戦争の無駄、悲惨さを語り継がなければと思う。 まだ、みんな(出演者、スタッフを含めて)の中の動揺は隠せず、気持ち的な混乱は引きずっているが、舞台を演りながら、稽古をやりながら、心の整理を急いでいる…という状況は私も同じだが、とにかく、今は、無事に千穐楽を迎える…ということが、井上さんへの最大のお礼と恩返しになる。 私達が子供の頃、テレビで人気の『ひょっこりひょうたん島』を観て育ち、それが、縁あって、この大作家さんの仕事の手伝いが出来た事、亦、この度、最後の作品に関わらせて戴けた事…全てが私の宝物であり、本当に、本当に心から誇りに思う。 私の目の前で輝いていた巨星、杉村春子、水上勉、そして、井上ひさし姿は消えても、これまで以上に私の中で輝き続けるに違いない。 『千の風になって…』実感しています。 はぎうだ ちづこ■コメント&応援メッセージ掲示板http://bbs.avi.jp/463182/* 著作権はOffice A.N.Kとヒーリングアート館に帰属します。個人・法人問わず掲載されている全ての文章・画像の無断転載を禁じます。It is prohibited to copy a part or the whole of this website without permission.Copyrights : Office A.N.K.& Healing Art Gallery. All rights reserved.