Beauty Source キレイの魔法

2005/10/18(火)15:38

「黒蜥蜴」観劇記5 恋の罠と第三の女

美輪明宏さんの舞台&映画(112)

「今日はいつもの夜と違うような気がするわ。 夜がひしめいて息を凝らしているわ。精巧な寄木細工のような夜。 こういう晩にはかえって、体が熱く火照って生き生きするような気がするわ。」 「犯罪が近づくと夜は生き物になるのです。僕はこういう夜をたくさん知っています。 夜が急に脈を打ち始め、温かい体温に満ち、とどのつまりはその夜が犯罪を迎え入れ、 犯罪と一緒に寝るんです。時には血を流して。」(三島由紀夫 「黒蜥蜴」1951年) 早苗嬢の赤い着物から、白い自分の着物に着替えて、 岩瀬氏の部屋で犯人の登場を待つ明智小五郎の前に大胆にもやってきた黒蜥蜴。 明智の気を惹くように、煙草に火をつけさせ、その実、 自分の犯罪という芸術が完成する過程に酔っている。 明智はこれから起る犯罪について語るようでありながら、 並ぶ言葉はほとんど口説き文句のそれ。 どちらも相手を見張りつつ、網細工を織る蜘蛛のように、 お互いに糸を絡ませ、だんだんと締め上げてゆく。 心にも火を 「Sherlock Holmes」 「そういう場所をたくさん潜り抜けていらしたあなたなのねえ。 犯罪とあなたとはきっと今では写真の陰画と陽画のようになっていて、 あなたの目は犯人と同じものを見、あなたの心は犯人と同じことを 思い浮かべるようになっているのね。」 「ああ、僕もそこまでいければなあ。」(同) 黒蜥蜴のセリフ、これはコナン・ドイルの作り出したシャーロック・ホームズも ワトソンに語っていること。 原作を書いた江戸川乱歩が明智小五郎を、ホームズに模したと思われる由縁のひとつ。 さてこそは、黒蜥蜴はアイリーン・アドラーとも。 「ボヘミアの醜聞」 高嶋さんのここでのセリフ回し、探偵ごっこを楽しむ少年のように、 とても無邪気で可愛らしいのです。 女心をそそるように。 「犯罪というものにはある資格がいるんです。いいですか。 犯人自身もしかとつかめないある資格が。」 「資格って?」(同) ここで明智小五郎の演説。 『薔薇の花束を男からもらい、そこに虫を発見したときの女の三様。』 第一の女 悲鳴と共に暖炉に花束を投げ込む。犯罪は犯さない。 無意識な残酷さで、自分と世間とを救う。 第二の女 冷静に虫をつまんで暖炉に投げ入れ、綺麗になった花束の香りを改めて嗅ぐ。 意識的な残酷さを発揮して薔薇の命と虫の命、世間の秩序と道徳とにくっきり段階をつける。 第三の女 優しさゆえに虫も殺したくない、花束も焼きたくないため、 花束をくれた男を暖炉に突き飛ばし、その顔を真っ黒に焼く。 自分の優しさに忠実なあまり、世間の秩序と道徳とを根こそぎひっくり返す。 三人の中では第三の女が一番残酷さが少ない。 けれど、彼女は犯罪者の資格を持っている。 三人の女のうち、あなたはどれに近いでしょうか? ローズアレンジ 「貴婦人」 登場人物で第一の女に近いのは、岩瀬氏と早苗嬢。 無意識に言葉を振りまき、危険という橋の上を無邪気に渡る。 第二の女、これはきっと明智小五郎。 意識的に成らざるを得ない因果な役割を担いつつ、そうでないものに憧れと恐れを抱く。 第三の女、もちろんこれは黒蜥蜴。 「素晴らしいお説だわ。あたくしいままで、あなたのような探偵にあったことがありません。 こんなに真から犯罪を愛し、犯罪にロマンティックな憧れを寄せている探偵に。」(同) すっかり心酔してしまう黒蜥蜴に対し、探偵である明智小五郎こそ、 自分の優しさに忠実な純な女性を恋の罠にかける 確信犯のように見えてくるのです。

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