午後4時くらい。
空にはどす黒い雲が立ち込め、
時々、稲光が光る。
その直後に耳を劈く音が、
空気を切り裂く。
久々の夕立かな。
そんな空の一大事とは対照的に、
事務所から、ポケッと眺める。
「竜神が怒ってるね。」
頭の中で、またあの声がする。
そうなのかな。
「ほら。」
その声の直後に、ピカっと、大きな稲光が空を切り裂いた。
そしてその稲光が発生したその上に、
確かに下を覗き込むようにして竜の姿が見えた!
うわぁ、そんなことってあるのかな・・・?
ボクの理性の部分が反応する。
「そろそろ、雨が降るよ。
でも、帰る頃には止むから大丈夫。」
程なく、雨が本当に降り出す。
バケツをひっくり返したような雨だ。
窓に大粒の雨粒が滝のように流れていく。
「ひろなかくん、どうやって会社に来とん?」
社長がボクに聞く。
「ええ、今日は原付です。」
「うわぁ、そうなん。ちょっとこっち、来てご覧。」
ネットの天気予報を見せてくれる。
「ほら、23時にならないと、雲が岡山から出て行かんで。
奥さんに迎えにきてもらったら?」
「そうですね。
もう、どうしようもなくなったら、嫁に電話します。
しばらくは、お祈りでもしてみます。」
午後7時。
雨がやんだ。
「さ! ほら、今しかないかもしれんよ。
早く、家に帰り!」
社長が帰り支度をしながら言った。
「ほら、やんだでしょ?」
頭の中で声がした。
ふふふ。ボクは思わず声を出して笑ってしまった。
「ホントだ。」
一斉に、皆が帰り支度を始めて、会社を後にした。
帰り際、原付の調子が良くないのか、直線でスピードが出ない。
「あれ?」
と思った次の瞬間、
「次に止まった時でいいから、両方のブレーキをギュッてひいてごらん。
今、ちょっと斜めになってるから、ブレーキパットが当たってるんだよ。」
と言う声が、一瞬でした。
「え?」
と思いながら、その場で一旦止まって、
ブレーキを思い切りかける。
「直った?」
随分と直線でスピードが乗るようになった。
ふふふ。ありがとう。
思わず、呟いた。
「ふふふ。どういたしまして」
鈴の音がチリンとなったような声だった。