大江戸の侠児・・・(10)
新田村の太朗右衛門ちゅう者だでその田舎やくざは、桝安一家の前に立つと、おもむろに笠をとり、合羽を取り、びっこを引きながら桝安一家に入って行きます。 どこからやって来たのでしょう。着ている物はボロボロ、片足びっこを引き、すがめで、田舎弁丸出しです。「ちょっくらご免くだせ」子分の長吉が出迎えます。「旅の、へい、者だでよ。おたのもうしますだ」「客人、お固くなくおらくに・・・」と言われ、「ほいじゃなあ、御免こうむって」というと、長脇差を後ろにまわし仁義を切りはじめます。 田舎やくざが「お引けえなせ」長吉がそれに対し「お引けいなせ」田舎やくざが「お引けえなせ」長吉が「お引けいなせ」と返すと「やだあ、仁義にならねえだで、まずあんさんからお引けえなせ」と言われ長吉が逆いながら控えさせていただくといいますと、田舎やくざは、「それじゃあご苦労さんでござんすが、おらあ、信州新田村から来たたで、渡世につきやしては・・・新田村の太朗右衛門ちゅう者だで」(おや?この田舎やくざは、次郎吉ではありませんか。なんという変装でしょう) 桝安はじめ、鼠小僧は捕まえたも同じと祝いに来ていた親分衆も、新田村の太朗右衛門の名は聞いたことがないので、草鞋銭でもやって帰しちまいという桝安でしたが、一宿一飯でおいて危ない仕事をさせたらという言葉に乗り、燗冷ましの酒でもやって泊めておくことにします。塩をさかなにかん酒を飲みながら、時々鋭い視線で辺りを見ていると、長吉が今日は忙しいから早めに風呂へ入って寝てくれといってきます。うんと賑やかだが、どなたかのお通夜かお葬式でもあるのか、と聞く次郎吉に、長吉が逆だよと言い行ってしまうと、次郎吉は風呂に入れさせてもらうか、といい裏庭の方へ出ていきます。 裏庭には権、文字春、おたかが押し込められている納屋の見張りの子分がいます。子分は納屋の方に歩いて行く次郎吉を止めようとしているようです。長吉と湊屋の女将が話があるようで裏庭に出て行くと、見張りの様子がおかしいと近づいてみると、二人の子分は死んでいました。長吉は納屋の中が心配になり開けてみると、三人の姿はなく、奥から光るものが見え、慌てて外へ飛び出し、「親分・・・咎人が逃げたぞー」次郎吉に抑えた長吉が必死に叫びます「親分・・」 子分達が次郎吉を取り囲まれます。「御用だ」 続きます。