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カテゴリ:本
伊藤康英、 鈴木 英史という吹奏楽界では著名な作曲家お二方と指揮者の滝澤尚哉氏の3名の共著による吹奏楽の名曲をセレクトし、解説を加えた著書。 この本の特徴は上述の名曲に加え、著名な作曲家や演奏家の考える名曲のアンケートがあるのが嬉しい。 殆どの曲は知っているが、知らない曲や忘れていた曲を確認したり、音を聞く楽しみがある。 前書きで伊藤氏が20年ほど前に音楽大学でホルストの吹奏楽のための組曲を知っているかと学生に聞いたところ、誰も知らなかったということに驚いた話が載っている。 昔の人間だったらだれでも知っている吹奏楽の古典なのだが、次から次へと新しい曲が出来るので古典まで手が回らないのだろうというのが伊藤氏の見解だ。 いつも思うのはアメリカをはじめとする諸外国では古典を大事にしていて、コンサートでも普通に取り上げられている。 ところが日本ではコンサートでは新し目の曲とポピュラーという偏った選曲になってしまっている。 部活では演奏者の好きな曲を取り上げやすいことは確かだが、指揮者や指導者の目配りが足りないと思う。 そういう観点からもこの本は貴重な本だと思う。 本の内容とは関係ないことを話してしまったが、日本の吹奏楽のあり方について現役の作曲家から指摘されることはいいことだ。 閑話休題 本書の構成は次の通りになっている。 第1章 吹奏楽の新約聖書(11曲) 第2章 20世紀・戦後の世界遺産(34曲) 第3章 21世紀・そして未来遺産(19曲) 第4章 多彩な世界遺産(26曲) 第5章 邦人作品の世界遺産(10曲) ページ毎に上に作品名が書かれていて、パラパラめくるだけですぐ曲が分かるという、細やかな配慮も嬉しい。 取り上げられる曲に偏りが出ることは仕方がないことだが、イギリス偏重で、アメリカが少ないことが不満だ。 世界で最も吹奏楽の盛んな日本の作曲家の曲は「邦人作品の世界遺産」として章立てされているのは有難いが、曲数が少ないのが残念だ。 扱われている曲は少ないが、行進曲についても第4章で言及されているのは嬉しいが、6曲だけなのは少々お粗末。 作品名のインデックスが付いているのも有難い。 気になる点はあるものの総じて良くできた本だと思う。 細かいデータもついていて、さすがに音楽の友社の出版だけのことはあると思う。 欲を言えば代表的な演奏についての記載もあればよかった・ すぐ陳腐化するので敢えて載せなかったのかもしれないが、例えばDISCOGSにも結構載っているのでそのURLを載せるだけでも役に立つだろう。 ところで、発行から2か月半で第3刷と好調な売れ行きのようなのは、同好の士としても、とても嬉しい。 筆者も、取りあえず名曲とは思っていなかったグレインジャーの「ローマの権力とキリスト教徒の心」を引っ張り出して聴いてみることから始めたい。 伊藤康英・鈴木英史・滝澤尚哉 著 「吹奏楽作品 世界遺産100: 後世に受け継がれゆく不朽の名曲たち」 音楽之友社 2024年6月30日 第3刷 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024年08月03日 14時15分38秒
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