人生が変わる55のジャズ名盤入門
ジャズ批評の新刊案内に掲載されていた本をチェックしていて見つけた本。kindle版もあったので、kindle版を購入した。この本の著者はベーシストの鈴木良夫氏。よくある名盤紹介とはひと味違っている。アルバムの選考は、氏のジャズ仲間に入門用のベストアルバム10枚と選外だった10枚とをアンケートで答えてもらうという方式。アンケートで集まった1,000枚の中から55枚を選んでいる。よくある名盤ガイドにはないようなアルバムはほとんどないが、名盤には違いないが意外なアルバムが入っているのは、ミュージシャン独自の視点からだろう。大方の予想通り一位は「カインド・オブ・ブルー」これは何方も依存のないところだろう。氏はミュージシャンなので、専門的な見地からの解説はもちろんあるが、実際にそこに参加しているミュージシャンとの思い出が満載で、大変面白かった。マイルスとは当時ニューヨークに在住していた菊池雅章のロフトで出逢ったそうだ。マイルスが来た途端、ピリピリした雰囲気になって、最初に言われた言葉が「I hate jap」彼一流のジョークだったと書かれてあるが、あの顔で言われるとビビりそうだ。中には辛辣なコメントも書かれている。オスカー・ピーターソンの「プリーズ・リクエスト」について、「どうしてそんなにいっぱい音を弾くの?」と疑問を呈している。この時のトリオでは、レイ・ブラウンを高く評していて、暴走するピーターソンをコントロールしていたのはブラウンだと言う。。マイルスの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」では、チックコリアが当時マイルス・バンドのメンバーだったウエイン・ショーターに「譜面ないか」と聞いたら、豚の絵を描いて、これだよって見せられたそうだ。要するに耳で聞いてやれということで、当時のマイルス・バンドのレベルが桁外れだという証拠だろう。例を挙げるときりがないが、全編がこのような調子で、凡百のガイドとは全く違う。アート・ブレーキーを評して「太陽みたいな人」と言っているのも実際に一緒にプレイした人ではわからないコメントだ。文章も大変わかりやすく、何よりも氏のおだやかなひと柄が滲み出ていて、読んでいて心が温かくなる。55枚のうち国内版で手に入らないのは2015年当時フラナガンのオーバーシーズのみ。これほど充実しているのも日本ならではのことだ。まだ、全部読んでいないが、取り上げられたアルバムのページを読んでるからアルバムを聴くと、別な味わいがあるかもしれない。日本人のジャズミュージシャンで文章を書く人といえば、山下洋輔と山中千尋を思い浮かべるが、鈴木氏もかなりの書き手であることがわかる。次回作もぜひ期待したい。人生が変わる55のジャズ名盤入門 鈴木良夫 著 2016年4月1日 発行 竹書房