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オシムは凄い。
優勝は逃したが,これでもかという逆風に次々にさらされながらも,ワールドカップアジア枠内に入るベスト4をきっちりゲットした。 戦績は6戦して2勝3分(PK戦は公式記録では引き分け)1敗。 日本と並ぶアジア強豪国のサウジアラビアには負けたが,これは巡り合わせが悪かった。ワールドカップでカイザースラウテルンの屈辱にまみれたオーストラリアと対戦し,相手のエースFWビドゥガを完璧に封じ,内容面でもオーストラリアを完全に圧倒して引き分けた後のPK戦勝利。あれで感情を爆発させてしまった。特別な試合で勝利し,喜びすぎると,どんなに頭で分かっていても,次の試合は緩む。で,往々にして負ける。古今東西あらゆる競技でそうした例は腐るほどある。対策としては,どんな相手にも平常心で臨むように日頃からつとめるしかないだろうが,今大会のオーストラリア相手に平常心で臨めというのは,無理な注文だったろう。雑誌ナンバー682号のアジア杯プレビュー特集冒頭記事のタイトルは,「ドイツでの傷をいやしたい」だった。「カイザースラウテルンの惨劇」は,あの試合を観ながら日本代表を応援していたすべての人を,そしてもちろんあの場にいた選手たちを深く傷つけたはずだ。オーストラリア代表は,監督こそ代わったものの,主力はほぼ同じ。オーストラリア戦は,少なくともあの挫折感と喪失感から立ち直るきっかけを与えてくれた特別な上にも特別な試合だったのだ。サウジアラビア戦とオーストラリア戦の順番が逆だったら,結果は違っていたのではないか。 そのオーストラリア戦を含め,引き分け3という数字は,ゴール前最後のフィニッシュに意欲と精度を欠く現代表の問題点を浮き彫りにした。これは確かに解決すべき課題。しかし,その引き分けの内容はというと,オーストラリア戦とは逆にPK戦で負けた韓国の試合を含め,ほとんど相手に何もさせず,終始ゲームの支配権を握り続けてのものだ。オーストラリアと韓国相手にだ。これは尋常ではない。アジアの中堅国相手でも,試合の主導権を握られることがままあった前監督時代の日本代表チームと比較して考えれば,驚くべき進歩だ。今大会の日本の決勝トーナメントの相手チームは,オーストラリア,サウジアラビア,韓国。いずれも昨年のワールドカップに出場した国だ。それに対して,前大会優勝の決勝トーナメントの対戦相手は,バーレーン,オマーン,中国,いずれも2年後のワールドカップに出場できなかった国だ。その3国を相手に「奇跡」を演じ続けての優勝。当時の反日感情渦巻く中国での優勝は,確かにカタルシスがあった。三浦淳を中心に結束したあの日本チームには,観る者の心を打つ何かがあった。しかし,ワールドカップに出場出来なかった国々に「奇跡」がなければ勝てなかった前代表と,現代表のアジアカップ6試合を比較したとき,そしてアジアカップを,ワールドカップという大目標への過程と捉えたとき,どちらが喜ばしい結果を残したかは明らかだ。しかも,前代表のアジア杯時のチームの特徴であり武器であった結束力は,ワールド杯本戦時,三浦淳を外し,中田英と小野伸二を加えた代表チームで,無惨に崩壊してしまったのだから。 はじめに,「これでもかという逆風」と書いたが,よくぞオシムは耐えたと思う。 アジアカップの代表チームについて,ドリブルで仕掛けられる選手がいない,個性を発揮できる選手がいない,シュートまで持って行ける選手がいない,そういう選手を入れるべきだという批判が渦巻いた。だからオシムのパスサッカーではダメだと。 そういう意見を口にする人,同調する人は,私の観察では海外組を使え,中村俊輔を使えと言ってきた人にかぶる。 みんな都合良く忘れている。本来,オシムのチーム作りにおいて,中村俊輔のポジションに誰が起用されていたか。誰が,オシムのチームの中心メンバーだったか。遠藤,闘莉王,安部,鈴木と共に,チーム立ち上げ以来常に起用されていた選手が誰だったか。いたでしょう。縦への突破力を誇り,ドリブルで突っかける個人勝負が大好きで,速くて鋭いクロスが蹴れて,シュートもうてる個性豊かな選手が。 そう。三都主アレサンドロ。中村俊輔ではなく,三都主がいるチームこそが,本来のオシムのコンセプトのチームなのだと私は思う。 ところが,三都主は,オーストリーに移籍してしまった。オーストリーは,レギュラーシーズンの開幕が早い。アジアカップ中にシーズンが開幕してしまう。三都主は,アジアカップでは使えない。では誰を使うか。三都主と同じ役割をこなせる選手はいる。ドリブル勝負を武器にクロスを蹴れてシュートも打てる速い選手。今大会にも連れて来ている。その名は水野。でもまだ若くて未熟だ。 だから,オシムは中村俊輔を使わざるをえなかったのだろう。そしてスピードに劣る中村俊輔を使うためにはチームコンセプトの修正が必要だ。オシム自身が日韓戦の後の会見で示唆しているが,今大会の4バックは,中村俊輔を融合させるためだったのではないか。そして4バックならば,阿部ではなく闘莉王こそが,センターバックだったのではないか。闘莉王だったら,いくらオーストラリア戦後の試合とはいえ,サウジアラビアに3点とられることもなかったろう。 ところが,闘莉王は,直前のJリーグの試合で負傷してしまう。その可能性は,オシム自身が指摘し続けていた。直前まで試合を組むことで,負傷する選手が出るかもしれないと。 今回のオシムのチームは,チーム立ち上げ以来の不動の中心メンバーを2枚欠いた,飛車角落ちのチームだった。アジアカップは開催年が代わって監督就任1年目で迎えることになった。2年目であれば,各ポジションにチームコンセプトをこなす換えの選手を育成できたかもしれない。水野も間に合っていただろう。でも1年目では困難だ。しかも,他の国が,例えば日本が負けたサウジアラビアが,事前に1ヶ月もの合宿を組んで大会に備えたのに対し,オシムに与えられた時間はあまりにも短かった。このような状況で,短期間のうちに,まがりなりにも統一的に機能するチーム,しかも本来のコンセプトとは異なるチームを組織してみせたオシムの手腕は,驚嘆に値すると私などは思うのだが。 ところが,世の中にはそうは思わない人が多いようだ。韓国戦後の感想ブログを検索してみると,普段はサッカーなんて見ないけどと断っている人の大半が,オシムに批判的だった。そしてそのようなブログ主の多くが「解説の松木さん」に言及していた。オシムに吹き付けた,そして今も吹き付けている逆風の最たるものが,実は「解説者」松木安太郎氏なのかもしれない。『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』を著した西部謙司氏は,みながオシム丸に載ってしまったこと,ジーコの時には常に一定の批判が存在したのに対し,オシムに対しては日本サッカー界の解説者やコーチなどサッカー関係者がすべて支持にまわってしまったこと,だからオシムでダメだった時に日本サッカーは立ち直れないくらいの打撃を受けるのではないかというようなことを指摘している。 西部謙司氏は,どうやら松木安太郎氏をサッカー関係者にカウントするのを忘れたようだ。無理もない。この人物は,ヴェルディ川崎の監督として開幕時のJリーグでチームを優勝に導いたことで知られるが,この時の事実上の指導者は後に日本代表監督候補にも名があがったネルシーニョであると言われており,その後指揮をとったセレッソ大阪と東京ヴェルディではさんざんな成績を残した末,それぞれ1年と半年で退任している。その後は,現場のコーチングスタッフとしては関わらず,「解説者」を務めてきた。ところが,私は,時々買うサッカーマガジンとサッカーダイジェストやほぼ出れば買うエルゴラや,必ず買う「サッカー批評」で松木安太郎署名の解説記事を読んだ記憶が一度もない。にも関わらず彼はその庶民的で情熱的な語り口で一定のファンを持つテレビ朝日のサッカー解説者であり,そしてなぜか彼は,オシムが日本監督になって以来,首尾一貫してアンチオシムの言動を貫いてきた人物なのだ。 不幸なことに,アジアカップの放送権はテレビ朝日が持っており,アジアカップの日本戦は,松木安太郎氏と,もう一人のアンチオシムの極北,セルジオ越後氏のコンビの「解説」によって放映された。たまにテレビでサッカーを観るだけの大多数の人には,解説コンビが「日本サッカー界」では例外的なアンチオシムであることなど,知る由もないだろう。 残念ながら,サッカー専門誌に精緻な解説記事を発表する専門家集団より,テレビで絶叫する松木安太郎氏一人の方が,一般世間には,大衆世論の誘導には,影響力がある。ファシズムの可能性に,想いを馳せざるを得ないほどに。きわめて残念ながら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.08.02 22:24:34
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