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『とんとこひ・セクスアリテ』

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December 10, 2008
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金 纓(キムヨン)さん(父は韓国の詩人・文学者、金素雲。子は歌手、沢知恵)
『それでも私は旅に出る
―― チマ・チョゴリの日本人,世界へ ―― 』(岩波書店) より



 「なぜ旅をするのか」と訊かれるたびに、父・金素雲が日本語に訳した「南に窓を」という朝鮮の詩の最後の部分を思い出す。

 田舎で質素な生活をしている人が、「なぜ生きるのか」と訊かれて、なにも答えられず「ただ笑う」という内容のものだ。



 ここで「笑う」というのは、もちろん大声で笑うのではなく、微笑みとも違う。答えに困って、やや自嘲気味に浮かべる笑みのことだ。

 それを父は、「なぜ生きるかって、さあねえ」と訳して、優れた訳文の例として評価されている。

 私も正確には答えられないから、「なぜ旅をするかって、さあねえ」とごまかしの笑みを浮べるしかない。---



 「主人(金素雲)の良いところを全部受け継いだのが、娘の纓です」

 あんなに父を嫌って、別れはしなかったが会うこともなかった母が、それでも父に良いところがあると認めていたとは。
・・・私のどの点を良いと思っていたのか。
生きていれば訊いてみたいところだ。---



金素雲(キムソウン)さん『朝鮮詩集』(岩波文庫)より


南に窓を 金尚(金+容)キムサンヨン 金素雲

南に窓を切りませう
畑が少し
鍬で掘り
手鍬(ホミ)で草を取りませう。

雲の誘いには乗りますまい
鳥のこゑは聴き法楽です
唐もろこしが熟れたら
食べにおいでなさい。

なぜ生きてるかつて、
さあね ------。


金 時 鐘(キムシジョン)さん(79)=奈良県生駒市=
『再訳 朝鮮詩集』(岩波書店)より


南に窓を 金尚(金+容)キムサンヨン 金時鐘

南に窓をしつらえるとします
ひとりで耕せそうな畑を
鍬で掘り
手鍬(ホミ)では雑草を取ります。

雲が賺(すか)したとてその術(て)に乗りましょうゃ
鳥の歌は只で聴きとうございます。
唐もろこしが熟れたら
共にいらして召し上がっても結構です。

なぜ生きてるってですか?
そういわれても笑うしかありませんね。








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Last updated  December 10, 2008 12:15:32 PM
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