3313492 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

カフェ・ヒラカワ店主軽薄

カフェ・ヒラカワ店主軽薄

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2006.02.23
XML
カテゴリ:ヒラカワの日常
増田さんから副鼻腔炎の手術を一考したらどうかとの
ご案内をいただいた。
二泊三日の病院旅行らしいのであるが、
まあ、俺のは急性ということなので、
もう少し通院しようかとおもう。
(ご助言、ありがとうございました。)

山田風太郎の『警視庁草紙』を読んでいたら
「とんだ玄冶店(げんやだな)だな」なんていう
台詞にぶつかった。
その音はよくよく知ってはいても
なんだか意味のよく分からない言葉というものがある。
玄冶店は、
もちろん春日八郎の「お富さん」の歌で
俺もガキの頃、よく口づさんでいた。
四歳のころの話である。

─粋な黒べえ
みこしの松にあだな姿の洗い髪
死んだはずだよ お富さん
生きていたとは お釈迦様でも 知らぬ仏の
お富さん
エーサォー 玄冶店

と言う歌を、ガキの俺がよくも覚えたものである。
よっぽど、流行ったんだろう。
しかし、ここにある物語は、
およそ洟垂れガキが解する世界ではない。
そして、歌詞もまた、日本語の宝庫といった風情で、
あらためて見直してみると大変に味がある。

で、玄冶店とは何かってことだが、
最初は、験(ゲン)が悪いぜって意味だと思っていた。
それだと、お富さんは幽霊になっちまう。
無知とはとんでもない幻影を見させるものである。
玄冶は、人名である。
大層な金持ちで、元吉原跡地の自分の土地に今でいう
高級長屋(いまでいうってことはないか)を作った。
花街、芝居小屋に囲まれた一角である。
そこは、いまならさしずめ表参道ヒルズとか、六本木ヒルズ
のような高級住宅街なのだが、
当時のお大尽は、こんな下世話な場所にはすまない。
まあ、そういうことでお妾さんに住まわせるには
絶好の場所であったというわけである。
その場所を指すのか、あるいは人を指すのか、
それともこういった状況を指すのかよくわからないのだが、
(たぶんその全部だろう)これを玄冶店という。

じゃあ、見越しの松ってのは何なのか。
俺はずっと、神輿の松だと思っていた。
黒ベイに神輿の松の絵が描かれている。
思い込みとは恐ろしいものである。
神輿ではなく、見越し。
庭に植えた松の枝が塀を越えて道路側に突き出ているような
光景のことである(らしい。)

そこに、あだな姿の洗い髪の女が顔を出す。
昔、死ぬほど恋焦がれた、許されざる仲の女の似姿である。
そう、これは斬られ与三郎と、お富の悲劇の恋の道行きの
歌なのである。
「しがねえ恋の情けが仇」の与三郎である。
与三郎は、やくざの親分のお妾さんに恋をしてしまう。
逢瀬を見つかりめった斬りの目にあう。
数年後、自暴自棄からやくざに身をやつしていた与三郎は、
黒塀の家で、死んだはずのお富と出会う。
歌舞伎で有名な「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の一説。

俺は、この話と似たような体験を、
現実に目の当たりにしている。
悪友と、フランス語を習いに日仏学院に通っていた頃である。
この悪友が、その学校でえらく色っぽい女に惚れた。
ところが、その女はさる有名なやくざに囲われていたのである。
すったもんだがあって、そいつは女と切れる。
ある日、そいつから「いま、手首を切っている」という電話がきた。
駆けつけた俺は、「まあ、そう死にいそぐこたぁない。まあ飲め」
と言って酒を注ぐ。
その酒がいけなかった。
血の巡りがよくなって、手首からの出血がひどく
なって、痛みも増す。
その痛みが、そいつを救うことになった。

古来より、男女の道行きのあらゆる話型は語りつくされている。
いや、人間の行いは、それほど多様なものではない。
オリジナルな人生なんてものはないのである。
「ナンバーワンよりオンリーワン」なんて歌があるが、
オンリーワンなんか、歴史の中にそこいらじゅうに
転がっている。
そして、おなじお話を何度読んでも、感動が新たなように、
どこにでもある人生も、どこにでもあるが故に、
噛みしめてみるに値するのである。
じじいにならないと、そういうことはなかなか分からない。

以下は、「声に出して読みたい」与三郎の啖呵。

しがねえ恋の情けが仇、命の綱の切れたのを、どう取りとめてか木更津から、
めぐる月日も三年越し、江戸の親にゃ勘当受け、よんどころなく鎌倉の、
谷七郷は食い詰めても、面に受けたる看板の、疵がもっけの幸いに、
切られ与三と異名を取り、押し借り強請(ゆすり)も習おうより、
慣れた時代の源氏店(げんやだな)。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006.02.23 23:42:23
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.