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カフェ・ヒラカワ店主軽薄

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2007.09.10
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カテゴリ:ヒラカワの日常
「世界が民主主義を発見し、政治的にはアメリカなしでやって行く
すべを学びつつあるまさにその時、アメリカの方は、
その民主主義的性格を失おうとしており、己が
経済的に世界なしではやって行けないことを発見しつつある」
エマニュエル・トッドのこの認識は
まったく見事という他はない。
ジオ・ポリティクスを五十年、百年というスパンで
見ることのできる目にはそれは、
当たり前の事実であり、
瑕疵は見当たらない。
確かに言われてみれば当たり前だが
この当たり前すぎる事実を誰も
トッド以上にうまく
そしてエレガントに言い表すことができなかった。

始末の悪いのは
こういった透徹した歴史観が全く呑み込めない
人々がいて、それが為政者だった場合である。
「テロとの戦い」というスローガンもまた、
トッドの描いた文脈を逃れたいアメリカが強引に創作した物語であり、
セプテンバー・イレブンはたまたまこのスローガンを実行する
トリガーになったに過ぎない。
セプテンバー・イレブンが無かったとしても
アメリカは自国のプレゼンスを維持するためには、常に「外敵の脅威」が
必要であったのである。無ければそれを作り出すことが、
アメリカの軍事的プレゼンスには必須の条件なのである。
アメリカが民主主義と自由主義の守護者であったのは、
ソ連(あるいは共産主義イデオロギー)という強大な脅威が存在していたからである。
ソ連が退場することは、同時にアメリカの政治的・軍事的プレゼンスが消失することを
意味していた。そして、世界はまさにそのように動いていった。

テロは、こういった歴史的な文脈とは無関係に、
圧倒的な軍事非対称が存在している限りは存在し続ける。
それは帝政ロシアの時代にもあったし、アイルランドにも、カナダにも、南米にも
世界中のいたるところにあったわけである。
長期的な視野に立つならば、アメリカの政治的・軍事的プレゼンスが低下すれば、
テロは、必然的に減少傾向を示すことになる。勿論、職業的なテロリストは、
どんな時代においても、一定の活動を続けるだろう。
しかし、一般的な市民や、政治的党派が、
テロリストの戦列に加わる根拠は確実に減少するからである。
自分たちの主張を通す選択肢というものが増えれば、
テロという絶望的な手段をあえてとる必然はなくなる。
テロが生き続けるのは、それ以外に選択肢がなく、それが
考えうる最も効率的な手段であると信じられる限りにおいてである。

その意味では、アメリカのような軍事的なスーパー・パワーが存在することが
テロという対抗手段をつくりだしているともいえるのである。
だとするならば、そのスーパー・パワーが
テロとの戦いを宣言すること自体が自家撞着ということになる。
それは、貧困との戦いといっても、環境破壊との戦いといっても、
差別のと戦いといっても同じである。
アメリカという国がまさに、アメリカ的なものが作り出した負の遺産の処理に関して
こういった自家撞着した対処法しか思い浮かばなくなっていることが
問題なのである。

テロ特措法の延長を巡って、
安倍総理大臣は、これはアメリカとの約束ではなく、
「国際社会との約束」なのだから、何としても実行しなければならないと言うような
ことを語っている。
こういうときに、これまでも何度か「国際社会」という言葉が
出てきた。「非武装中立なんていう非現実的なことを言っていては、
国際社会の笑いものになるだけである」なんていうように。
― みーんな、そう言っているんだぜ。
自説に明確な根拠が無いときの常套句である。
しかし、実体的にも観念的にも、日本が国際社会とテロ特措法の延長を
約束したということはなかったと思う。
(約束したのは、テロ特措法には期限があるということの方だ。)
勿論、国連との約束はしていない。
国連以外の国際社会ということは、旧西側諸国ということになるのだろうが、
述べたように、ソ連という脅威が消失したいま、西側という言葉もまた
消失している。
アメリカが対イラク戦争に単独主義で介入し、その戦いが泥沼化し、
事実上のアメリカの敗戦という図柄が明瞭になるにつれて、
アメリカの同盟国、追従国の為政者たちは、いづれも苦境に立たされている。
イタリアのベルルスコリーニしかり、イギリスのブレアしかり、スペインしかりである。
各国の得票傾向には、イラク介入支持への反省が如実に顕れている。
アメリカの没落という趨勢は、ほぼ確実になっており、
それゆえ世界は大きな過渡期を迎え、歴史の過渡期の不安定と混乱に
晒されることになるだろう。

おそらくは、文脈的な検討が必要なのだと思う。
テロも、貧困も、環境破壊も、差別も、
外敵ではない。自分たちの欲望の拡大と自由の享受のためのシステムが
生み出した負債というべきものである。

「美しい国」をスローガンに登場した
安倍晋三というひとには、何の恨みもないけれど、
彼の選挙結果に対する見解を聞いていると、
自分の政策そのものに対する反省よりは、
閣僚の不祥事や、マスコミのミスリードなどに
原因を求めたがっているように思える。
(だから、続投したのだろう)
しかし、選挙での敗戦の原因は、まさに
安倍晋三の「美しい国」そのものであるということには、
思い浮かばない。
こういった思考タイプの政治家は、外的が存在しているときは
活躍することができるのだが、
「外敵ではなく、自分たちの存在そのものが生み出した害毒」というような
二十一世紀的な課題の解決には、もっとも不向きであるというほかはない。

問題の在り処そのものが見えていなければ、
かような難問に立ち向かえるはずがないのは明らかだからだ。





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最終更新日  2007.09.12 11:28:30
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