宮本 輝氏のスペシャルトーク
6月1日の午後に作家の宮本 輝氏のスペシャルトークがあったので、妻と一緒に聴講してきました。 富山県の呉東の入善、黒部が舞台の小説「田園発港行き自転車」の発売記念講演会でしたが、富山市内に在住された時期があり、聞き手のやはり富山市出身の元NHKアナウンサーだった古屋和雄さんとの絶妙のトークを楽しんで聞いてきました。 宮本氏が富山市在住の30才頃に「蛍川」など富山を舞台にした作品を発表しているのは知っていましたが、富山の田園風景をスライドで示されながら、富山県人は一般的なイメージは地味な風に見られているが、いろんな良い所があるので、自信を持って富山県発信の生活していってほしいというメッセージを頂きました。 「田園発」の舞台/忘れがちな風土の魅力―北日本新聞社説から 「豊かなとこやなあ」と作家の宮本輝さんは思ったという。入善町の田園風景を訪れたときのことだ。風が吹くたびに稲穂が揺れ、視界が黄金色に波打つ。ふるさととはこんなに美しいものか。この豊かさに富山の人の方が気付いていないんじゃないか-。本紙に連載した「田園発 港行き自転車」が集英社から刊行されたのを記念して行われたトークショーで、そう語った。 県外からトークショーを聴きに来た人たちの中に、小説の舞台になった黒部川の愛本橋のたもとで弁当を食べ、レンタカーで田園を走り、滑川市の旧北陸道を回った人たちがいた。 いずれも有名な観光地ではない。むしろ日常の生活の場である。そこが小説の舞台になり、観光の目的地になり得るとは、地元の人もあまり予想しなかったに違いない。 宮本さんの心を捉えたものは、自然そのままの美しさではない。暴れ川と闘い、流水客土で土地を改善し、用水を張り巡らせて田畑を潤す、人の営みの歴史-。 厳しい土地柄に立ち向かった市井の人々の粘り強さやしたたかさといった気質-。 それらをしのばせる「風土」の魅力である。 風土の魅力は、住み慣れた人は気付きにくく、忘れがちだ。だが、よそとは比べられない魅力に違いない。 地方創生や交流人口の拡大が叫ばれ、日本中の自治体は観光戦略に躍起になっているが、違いを出すのは難しい。 いま一度、風土を見つめ直す文化施策や地域史の掘り起こしなどの重要性を確認したい。 戦時中、南砺市の旧福光町に疎開していた板画家、棟方志功のもとを訪れた民藝運動提唱者の柳宗悦(むねよし)は、棟方の作品が地域のあつい信仰心や精神風土の影響を受けて良くなっているのを見て、この地方には土地の徳「土徳(どとく)」があると評した。 これも風土の力や魅力を外から来た人が指摘した例だろう。 南砺市は「土徳の里」を生かした地域活性化に取り組んでいる。県内のあらゆる地域にも、見過ごされている豊かさがあるに違いにない。 都会を離れて田舎暮らしを選択する人が増え、県内への移住者も2014年度は411人に上った。統計を取り始めた08年度の2倍である。 こうした人たちは生き方を見つめ直し、価値観や人生の優先順位を変えた人たちが多い。どの土地に住むかを選ぶ際に、風土が持つストーリー性に引かれる人は多いだろう。 観光客の旅の仕方も、名所旧跡を効率的に回るスタイルではなく、地元の人々の暮らしが見えたり、癒やしや生きる糧を旅に求める人も増えている。 県内の文学館や美術館、博物館などは、風土の視点を掘り下げていく拠点である。地方創生の観点から学芸活動の連携を深め、発信力を高めるのもいい。 また、住んでいる人が自分の地域を学び、感動と誇りを持つことも重要だ。そこから、もてなしの心が自然と生まれる。