ボウリングの贈り物(後編)
(前回のつづきです。よければ前編からぜひ)◆ここまでで感じた状況◆●左のレーンは立ち位置17.5枚目から9枚くらいを狙う。 10枚に濃淡の境目があり、理想はその外をまっすぐ走らせる形。 それだと角度も申し分のないジャスト。 ただ、そこより内側に落としても、つーっと乗っていく感じはあるが、 それでも薄めでも倒れるという感覚はあり、大きな被害にはならない。 こちらは手中に収めた、と思いました。●右のレーンは立ち位置20枚目から11枚目を狙う。 ただし、構える位置は低めで、スピードを落として手前から転がす。 そうすると、薄めながらパラパラと倒れてくれます。 最初のように9枚まっすぐを通常速度で投げるともはや10番がキツイです。 ストライクになることはありましたが、5割以下ですし、 しかも印象が悪かったのは6番が10番を自力で倒していないこと。 常にキックバックの恩恵を受けていたので、印象はかなり悪かったです。 それが心配だったので、少し立ち位置を内にしてスピードを殺すことにしました。<3ゲーム目>得意な左レーンのジャストストライクから始まったこのゲーム、続く右レーンにて、薄めに入ったボールがパラパラとピンを倒しました。そして、同じフイルムを回したかのように、それが2セット。x x x xリリースとかフォームも「投げたいところに投げる」というレベルでは安定をし、「レンコンも把握しているし、ある程度はいい形だな」と思っていました。ただし、右のレーンに関しては、一切安心はできません。。6フレくらいのタイミングで「ジャストに持っていこうか」とも考えました。けれども、頭の中でイメージのボールを転がしてみると、ぴったりジャストに合わせにいったボールが10番を残す映像がフラッシュバック。おそらくは、かなり高い確率で10番が残るだろうという予感があり、ネガティブな動機ながら、「合わせに行かない」ことを選択しました。「戦術的撤退」じゃないですが、焦って動くと失敗すると過去の経験から考えました。そして、「この薄めを信じるしかない」と思いました。x x x x x x6個、きました。ここで初めて「これは可能性があるのでは」と思いました。ただ、ここで指を左右に振りながら計算をしました。(こっちであっちでこっちで…)そこで、我に返りました。(アチャー…10フレは不安のある右レーンのほうだわ;;)と。そうなのです。もし幸運にもこれが続いたにせよ、最後は3投、右の薄めを出し続けなくてはならないのです。(この条件は、単純なフレーム数以上に厳しいだろうな)と思いました。また、それなら(そこまでいったときに考えよう)とも。x x x x x x x x右レーンにて、やはり狙い通り薄めにヒットしたボールが7番をゆっくりと最後に倒し、8連続ストライク。9フレは得意な方です。いける、倒せる、やれる。9枚くらいに転がしてジャストを狙います。ただ、ここで無意識に力が入ってしまいました。7枚へと右に2枚程度の外ミスです。「しまった!」とボールの行く末を見送る僕の頭には3つのことがありました。・内ミスはつーっと走っていってバラっと倒れる。・ジャストは先で食い込む感触があり、問題なくスプラッシュ。・じゃあ、外ミスは・・・??そうです。外ミスがどうなるかわからないのです。不思議なもので、同じ薄めにしても、10番が何の問題もなく絡みバラッと倒れるレーンもあれば、もう、どうにもなんとも絡まないレーンもあるのです。おそらく、その違いを生み出しているのは出先のキレ方の違いなのでしょうが、正直、勝負のサイコロはどういう目を出すか、見守るしかありませんでした。結果は…バラッと絡んで、そこにある全てのピンが横倒しになりました。x x x x x x x x xこれで9連続となりました。いよいよ、問題の右レーンに帰ってきました。しかし、3投。あまりにも大きな「3投」。ここで思いました。「本当にジャストでなくていいのか」、「本当に合わせにいかなくていいのか」と。ロビンとカイチョの投球中、ずっと考えました。そして決断しました。もう、俺はこの薄めを信じる。薄めで7番まで倒れたら勝ち。パラパラの”パラ”が7番に届かなきゃ負け。よく言う「残るなら10ピン」というボウラーの常とう句は、この時の僕にとっては、まぎれもなく「7番」でした。1投目のためにアプローチに上がります。僕が過去最大までアタマから続けたのはここまででした。そのときは9連続ストライクから、内ミスして噛み、3-10スプリット。もちろんそのときはそんな映像は思い出してはいませんが、とにかく膝が がくがくします。どうにもこうにも、体が自分のものじゃないみたいに感じます。振りかかる全てのネガティブな感情を払うように下を向き、ボールに向かって叫びます。「出すぞ、絶対、倒すぞ!!」構えてからは一つだけの事を考えました。「手を返さないこと」回しにかかってひどい投球になることだけは、何が何でも避けなくてはならない。親指を12時の方向に意識付けし、リリースしました。イメージ通りの薄めヒット。バラバラ、、バラ,,,バラン…。←7番たおれたーーーーまず第一の関門を突破しました。少し胸に手を置き、呼吸を落ちつけます。「ヒロノブ君」カイチョが(珍しく)神妙な顔で歩み寄ります。長年の経験からここはひとつ小話でもするのかと思いきや、「さあ、館内放送してもらおう、皆に知らしめてこそ真のパーフェクトだ」言い終わるが早いか0.2秒で止めました。ロビンも、後ろから余計な言葉も吐かず、見守ります。そして2投目。昔PBA解説の坂内安友さんはしゃがれた声で言っていました。「10フレ勝負でよぐ言われるのは~“1つは誰でも来るんだ”とねエ。だだねェー 二つ目が難しい」その「二つめ」です。こういうときこそ、いつもやってることをおろそかにしないこと。ずれてきているメガネを上げて、シューズの先を板目にきちんと合わせて、親指を12時にセット。スピードを落とすために、ゆっくりとボールを下げて、顎を引き、そして、狙うスパットをしっかりとみる。__とにかく、手首は「返す意識を持たない」こと__ほぼ、ほぼ思ったところへリリースできました。速度を落としたボールはゆっくりとフックしながら、またも狙いの薄めへと。バラバラバラ…..バラ… (わあああ 7ばn….!!!!) パタ…ン。7番の腰をどこかのピンがすくい、時間差で7番が倒れていきました。x x x x x x x x x xx未知の世界、11連続。最後です。もうこれで最後です。もう何も迷いはありませんでした。この薄めをもう一度だす、それを信じる、と。アプローチに上がると、10フレ1投目で感じた感覚をさらに上回る緊張が体を包みました。今にして思えば、おそらくこの緊張というのは、僕の弱さではなく、僕のボウリングへの「思い入れ」だったのではと感じます。人は、とりわけその人がこだわりのあることに対して、自分の感情を大きく起伏させるものです。涙を流したり、腹の底から笑ったり、食事もできないほど落ち込んだり。そしてそれは、「弱さ」ではなく、きっとそれが「大切だから」です。とにかく、親指を12時方向へ。ルーティーンを終えて、ゆっくりと歩きだします。そして、リリース….ズッ…ドン…それが、このゲーム、最大のミスでした。親指が思うタイミングで抜けませんでした。着床がだいぶ先になったうえ、板目でも大きなミスが起きました。おそらくは内ミスだったと思いますが、頭が真っ白でした。もう、これは辿りつく先を信じるしかない。体をよじらせて、祈りを込めて、そのゆくえを見つめます。経由する形は違えど、薄めにヒット。バラバラ…バラ……(ああ,,,やっぱり7番…)ぱ た んx x x x x x x x x xxx 300いやったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!全身でガッツポーズ、そして万歳です!!!振り返ると、そこにはいつもクールなロビンが「お前すげえよ!!!!」といって駆け寄ります。そんなロビンに僕も飛びつきます。「ありがとう、ほんとありがとう!!」そしてカイチョとも抱擁です!!「ようやったなあああああああああ!!!!」「ほんとありがとうございます!!ほんと、ほんと…」泣きはしませんでした。全てが夢みたいで、フワフワしていました。ただ「よかった、よかった、出せて良かった」と、無意識のうちに、何度も何度も繰り返し言葉にしていました。そして、膝を落としたり、立ちあがったりしてウロウロしたり、時折ぐっとこぶしを握ってみたり、天を仰いでみたり・・・。とにかく ほっとしました。それ以外に言葉がありませんでした。カイチョが満面の笑みで言いました。「さあもう納得のいくまで、 何枚でも何枚でもスコアの写真取れええええい!!」アンギュラーワンを抱えて画面に寄りそった1枚。アンギュラーワンを抱えて仰ぐようにとった1枚。スコアをとった1枚。掲示する上のスコアをとった1枚。同じような写真ですが、何枚撮っても、いわば「至福」という感情が、次から次へと、僕の体の内側から外側へと出てゆきました。いろんなことが走馬灯のように駆け巡りました。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~まさにこれぞ「余韻」と呼ぶべき、そんな浮遊状態に留まっていると、カイチョの声で引き戻されました。「あのう、そろそろ次のゲームいきまっっす!!^^」そこからはご想像の通り、ボロボロでした。笑164 204 189笑なんとか合わせようとはしたのですけれどね。うまく打ちきれませんでした。でも。それでもよかった。大学2年生の9月にマイボールを持ち、5年半という時間の中で、実に5500~6000ゲームもの投球をしました。そして、1000号の200UPが生まれ、くしくも「同日」に生まれた1002号の200UPがなんと心待ちに待った初の「パーフェクトゲーム」でした。ロビンが「ふたつ同じ日はほんとすげえよ」と言いました。この巡り合わせにはほんとうに、それ以上の言葉がありません。このパーフェクトはきっと、自分の力だけでは出せませんでした。精神的な面でも、一緒に投げたカイチョとロビンが居ることはとっても心強かったです。ほんとうにありがとう。そして、僕はやはり、こうも思いたいのです。力を貸してくれたのは、「ボウリング」それ自身であった、とも。「やり続けたその甲斐は、きっとあるよ」そんな“彼からの”贈り物だったのではと思います。ボウリングを通じて知りあった全ての人に敬意と感謝を。2011年3月27日 春●井グランドボウル 15-16Lパーフェクトゲーム&1000本安打 達成