銀座つばめグリルのまっとうな味
つばめグリルは学生時代から慣れ親しんできた味である。銀座・品川・渋谷・二子多摩川のお店に良く行った。ここでビールの友としてよく頼むのはソーセージ、ジャーマンポテト、ニシンの酢づけ。 家族の大好物は「アイスバイン」である。これは豚のモモの塩漬けをゴロゴロの野菜やソーセージを入れてグツグツ鍋仕立てにしたものである。作り方を聞いたら最低塩漬けにして2週間は寝かせるそうだ。手間を掛けることによって、肉に旨みがどんどん熟成されてくるのだ。このドイツレストランはいまだに手作りの味を大事にしているのだ。 初代石倉社長は事業家であった。時の最先端の先をいくアントレプレナーだった。洋行帰りの人を捕まえては、英国や仏蘭西の話をにじっと耳を傾ける。大正末期に早くも旅行代理店を新橋に開いた。なんと目玉は東京・倫敦の旅行券。当時のつばめ号で神戸まで2日がかりで行く。そこで乗り換え、門司港へ。今度は船でプサン。そこからは鉄道で北上し、シベリア鉄道へ。オリエンタル鉄道で巴里の鉄道終点へ。最後ははドーバー海峡を渡り、世界経済の中心地・倫敦へ。まさに八十日間世界一周の鉄道版である。 しかし時代の先取りをしすぎ、当時はまだ閑古鳥だったそうだ。だたぴろ―い事務所で汽車の時刻を待つ貴婦人と従者たち。そんな気を紛らわすために片手まで洋食屋も始めた。あとは今のキオスク、当時の駅構内の売店も手がけた。これは相当儲かったようだ。しかしすぐにすぐにお上に召し上げられ、鉄道共済会の運営になってしまう。どれもこれも早すぎてうまく行かなかったようだ。 2代目が、初代の事業のうちマイナーだった洋食屋を引継ぐ。これが今のつばめグリルだ。なるほだだから「つばめ」なのだ。 ここの骨付き豚モモ肉をじっくりコトコト煮こんだアイスバインは絶品である。がぶりつくと柔らかくなった肉とスープが口中に広がる。フランクフルトやソーセージが丸ごと入っているのも嬉しい。なにしろここの味はまっとうな味なのだ。 話は脱線するが、私達夫婦の新婚旅行はドイツミュンヘンのビール祭り、オクトバーフェスティバルだった。この祭りは半端じゃない。この時期だけ、後楽園球場ほどの遊園地とビヤガーデンが五つも六つも特設で出現するのだ。 もう皆、バケツほどのジョッキーにビールを満杯にして飲めや歌えやのハチャメチャなお祭り騒ぎなのである。もう何人に抱きつかれたことか。その時うまかったのが、荒引きソーセージとザワークラウトである。 まさにその味をさらに上品にしあのが、ここつばめの味なのである。