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カテゴリ:★★★★☆な本
私たちは日々受け入れられない現実を、自分の心の形に合うように転換している。誰もが作り出し、必要としている物語を、言葉で表現していくことの喜びを伝える。 <感想> ★★★★☆ 作家と、その作品を評するときに「独特の世界観」という言葉が使われますが、 小川洋子さんは極めて強固なそれを構築している作家の一人だと思います。 静謐が支配する物語の中に読者を巧みに引き込み、得体の知れない世界の 奥深くまで導いていく手腕は見事としか言いようがありません。 どんな状況で読んでいても、本を閉じてから現実の世界に戻るまで半時を要し てしまう小川洋子ワールド。 本書では、そんな小川洋子さんが作品を手がけ る上で心がけていること、物語を紡いでいく過程などが語られています。 いくつか印象に残る言葉がありましたが、最も印象に残った箇所を引用します。 「主題は何でしょう、二十文字以内で答えなさい」というテストがあった として、その二十字がまず浮かんでくるのであれば、それは小説として 書かれる必要性を持っていないと思います。 ですから「テーマさえしっ かりしていれば、いい小説が書ける」 というのは幻想です。 テーマは 後から読んだ人が勝手にそれぞれ感じたり、文芸評論家の方が論じて くださるものであって、自ら書いた本人がプラカードに書いて掲げ持つも のではないと考えております。 もちろん異論のある方もいらっしゃると思いますが、小川洋子という作家は「何か を伝える」のではなく「何かを表現する」というスタンスを貫いていることが理解で きます。 今までエッセイなどを読んでいますが、小川さんは自分の作品について語るとい うタイプの作家ではないように思います。 それを踏まえるなら、今まで明かすこ とのなかった創作の内幕を赤裸々に語っている本書はファンにとっては貴重な 一冊といえます。 『博士の愛した数式』はもちろんですが、『リンデンバウム通りの双子』(←『まぶ た』というグロい表紙の短編集に入っている短編です)を読んでから本書を手に 取ることをオススメします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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