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テーマ:お勧めの本(7220)
カテゴリ:★★★★★な本
東京東村山の全生園で、24歳の生涯を終った著者は、生前、苦悩の彷徨を虚無へ沈まず、絶望によってむしろ強められた健康な精神を文学の上に遺した。入園後わずか3年の余命を保つのみであったが「文学界」に掲載された「いのちの初夜」は大反響を呼んだ。独英訳により、海外でも強い感動を与えている。 <感想> ★★★★★ 作者の魂(たましい)にふれる。 私小説を評する際にしばしば使われる 言葉で、私自身もレビューの中で何度か使った記憶があります。 しかし、 それは本来使われるべき作品にのみに、使うべき言葉なのではないだろ うか?本書を読んでそんなことを考えました。 さて、巻末の年譜によれば作者の北條民雄は大正三年九月某日、某県 に生まれたとなっています。 19才で、当時は不治の病として恐れられ、 差別の対象であったハンセン病を発病します。 彼のプロフィールが曖昧 なのはそのせいです。 ハンセン病療養施設の中で書いた小説が川端 康成に見出され、表題作は第三回(昭和11年上半期)芥川賞にノミネート されています。 重症患者の姿にわが身の行く末を想い、失明の恐怖に 怯えながら、ハンセン病をテーマにした作品を手がけます。 表題作は、彼が療養施設(多磨全生園)に入院した一日目の夜を書いて います。 ストレートな表現で当時の院内の様子が描写されています。 あ えて言葉を選びませんが、それは悲惨のひとことにつきます。 そこに身を置くことになる彼が吐露する心情は鋭い刃となって読む者の 胸を抉ります。 現代作家の作品に慣れている身としては なぜここまで書かなければなら ないのか?という疑問と幽かな怒りのようなものが湧いてくるほどです。 しかし、冷静に考えるなら、それこそが70年以上前に夭逝した作家の魂 (たましい)に触れた証だったような気がします。 「しかし、吸入なんかかけても、やがて効かなくなるよ。 だが まあ君の眼ならここ五年や六年で盲目になるようなことはないよ」 「五年や六年でか」私はあまりにも短いと思われたのだ。 「今のうちに書きたいことは書いとけよ」 彼は真面目な調子でいった。 私は黙ったまま頷いた。 (眼帯記) しかし、彼はこの文章を書いた一年半後に療養所で生涯を終えます。 享年24。 作家としての活動期間はわずか三年でした。 表題作は「青空文庫」でも読むことが出来ます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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